・・・すこし露骨で暗いけれど、戸田さんの持味は出ていました。私はその小説を読んで、てっきり私をモデルにして書いたのだと思い込んでしまったの。なぜだか、二、三行読んだとたんにそう思い込んで、さっと蒼ざめました。だって、その女の子の名前は私と同じ、和・・・ 太宰治 「恥」
・・・ことしのにはまたこの人の持ち味の自然さが復活しかけて来たようである。しかしあの大きいほうの風景のどす黒い色彩はこの人の固有のものでないと思う。小さな家のある風景がよい。 中川紀元。 いつも、もっとずっと縮めたらいいと思われる絵を、どうし・・・ 寺田寅彦 「昭和二年の二科会と美術院」
・・・ 溝口というひとはこれからも、この作品のような持味をその特色の一つとしてゆく製作者であろうが、彼のロマンチシズムは、現在ではまだ題材的な要素がつよい。技法上の強いリアリスティックな構成力、企画性がこの製作者の発展の契機となっているのであ・・・ 宮本百合子 「「愛怨峡」における映画的表現の問題」
・・・山田五十鈴、入江たか子、それぞれ自分の容姿をある持ち味で活かす頭はもっているといえようが、日本の映画は歴史が若くて映画としての世界が狭かったためか、女優のあたまにしろ感情にしろ、まだ奥が浅いと思う。このことには、日本の女の生活全体の歴史も反・・・ 宮本百合子 「映画女優の知性」
・・・それなどは、リリアン・ギッシュの持味として演技の落付き、重々しい美はあったがシナリオ全体としては従来の「支那街」の概念から一歩も脱していなかった。東洋のグロテスクな美、猟奇心というものが主にされていたのである。「大地」は、バックの原作が・・・ 宮本百合子 「映画の語る現実」
・・・細かくこの点に触れて観て行くと、外国でも女優はまだ持ち味を肉体の特長とともに一般的な女的性格の上に投げかけている程度に止っており、しかも、女優自身がいわば最も自然発生的なものの上に立って演じていることについて、自覚も煩悩も持っていないように・・・ 宮本百合子 「映画の恋愛」
・・・角度は、芭蕉のように身を捨てて天地の間に感覚を研ぎすました芸術家の生涯にある鋭い直角的なものではなく、謂わば芭蕉を味うその境地を自ら味うとでも云うべき、二重性、並行性があり、それは、藤村の文章の独特な持ち味である一種の思い入れを結果している・・・ 宮本百合子 「鴎外・漱石・藤村など」
・・・題材は社会的な素材を捉えながら文学としての特質はその作者の持味めいたものに置かれているというのも、当時の作品らしかった。「麦と兵隊」は、この作家が戦場で報道部員として置かれた条件を最もよく生かした成果の一つであったと思われる。この記録はあく・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・ 長篇・短篇と形の上での区分けが枝葉であるということも、作品の持ち味だとか、境地だとか、そんなものの翫味に散文としてこの小説の精髄はないと云われることも、それとして聞けば十分うなずけると思う。古来、本当に人間の肺腑にふれた文学作品で、た・・・ 宮本百合子 「人生の共感」
・・・ 現在では日本の婦人作家の性格、個性がまだまだ弱い。持ち味というような範囲でその作家は他の作家から自分をわけている範囲だと思う。 題材的には数年前になかった変化があって、例えば大石千代子氏のブラジル移民を描いた小説、小山いと子氏の「・・・ 宮本百合子 「拡がる視野」
出典:青空文庫