・・・とにかく二十八年間同じ精力を持続し、少しもタルミなく日程を追って最初の立案を(多少の変更あるいは寄道設計通りに完成終結したというは余り聞かない――というよりは古今に例のない芸術的労作であろう。無論、芸術というは蟻が塔を積むように長い歳月を重・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・ 若し、現時の我が文壇多くの芸術家が、人道を尊重し、愛を説き、正義に味方することを信念として、尚お、其の実、個人主義的態度を持続するならば、そして、強いて社会主義的精神を曲解し、其の種の運動に対して偏見を有するならば、ヒューズが平和のた・・・ 小川未明 「芸術は革命的精神に醗酵す」
・・・ 知識階級が、単独な階級として、持続されないことは、今や、明かなことゝされています。大多数が支配階級の附属たり、また擁護者たることを甘んずるとしても、芸術家が正義の感激から、被搾取階級のために、戦わずして止むべきかは、一にその人の良心に・・・ 小川未明 「街を行くまゝに感ず」
・・・それがいのちというものの純粋持続の特徴である。箱のような家に住み、紡績ばかり著て生きても夢と、詩とは滅びることがない。それが精神生活、たましいの異境というものだ。 燃えるような恋をして、洗われる芋のように苦労して、しかも笛と琴とのように・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・どうせ露見する事なのに、一日でも一刻でも永く平和を持続させたくて、人を驚愕させるのが何としても恐しくて、私は懸命に其の場かぎりの嘘をつくのである。私は、いつでも、そうであった。そうして、せっぱつまって、死ぬ事を考える。結局は露見して、人を幾・・・ 太宰治 「東京八景」
・・・それからまた、眼底網膜の視像の持続性を利用するという点ではゾートロープやソーマトロープのようなおもちゃと似た点もあるが、しかしこれらのものと現在の映画――無声映画だけ考えても――との間の差別は単なる進化段階の差だけでなくてかなり本質的な差で・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・この事情はいつまで持続するか。これは実に単に映画界だけの問題ではなくて、日本の文化一般の将来に係わる実にだいじな一問題ではないかという気もするのである。 七 ルネ・クレール作「自由をわれらに」は近ごろ見た発声・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・カルネラはそんなことなどは問題にしないと見えて絶えず攻勢を持続するのはよいが、やみなしに中庸な突きを繰り返しているのは、仕事の経済から見ても非常に能率の悪いしかたで、無益の動作に勢力をなしくずしに浪費しているように見えるのであった。ベーアは・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・そうしていよいよ当日の講演会に出て講演したり討議したり、たとえ半日でもとにかく平生とは少しちがった緊張興奮の状態を持続したあとでは、全く「頭がかたくなった」といったような奇妙な心的状態に陥ってそれが容易には平常に復しないで困ることがある。今・・・ 寺田寅彦 「映画と生理」
・・・その結果として読者の意識の底におぼろげに動きはじめたある物を、次に来る言葉の力で意識の表層に引き上げ、そうして強い閃光でそれを照らし出すというのでなかったら、その作品は、ともかくも読者の注意と緊張とを持続させて、最後まで引きずって行くことが・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
出典:青空文庫