・・・を読んだのもそのころであったが、これはファンタジーの世界と超自然の力への憧憬を挑発するものであった。そういう意味ではそのころに見た松旭斎天一の西洋奇術もまた同様な効果があったかもしれないのである。ジュール・ヴェルヌの「海底旅行」はこれに反し・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・ しかし多くの人の見るところによれば、自殺の増加の幾割かはたしかに新聞の暗示的、ないし挑発的記事の影響に因るものであろうと思われるが、右の新聞の社説にはこのことについては一言も触れてない。触れないのは当然であろうがちょっとおかしい。・・・ 寺田寅彦 「藤棚の陰から」
・・・入場料は拾円で、蓄音機にしかけた口上が立止る人々の好奇心を挑発させていた。しかし入口からぽつぽつ出て来る人たちの評判を立聞きすると、「腰巻なんぞ締めていやがる。面白くもねえ。」というのである。小屋掛の様子からどうしてもむかし縁日に出たロクロ・・・ 永井荷風 「裸体談義」
・・・果して日本の画家があの位の刺激に挑撥されて人工的に向上したとすれば、彼らは文部省の御蔭で腕が上がると同時に、同じく文部省の御蔭で頭が下がったので、一方からいうと気の毒なほど不見識な集合体だと評しなければならない。 余が某氏の言に疑を挟む・・・ 夏目漱石 「文芸委員は何をするか」
・・・それからよし道徳の分子が交っていても倫理的観念が何らの挑撥を受けない――否受け得べからざるていの文学もまた取り除けて考えていただきたい。それらを除いた上でこの二種類の文学を見渡して見ると浪漫主義の文学にあってはその中に出てくる人物の行為心術・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・夫がその性質を挑発的だと申すからでございます。わたくしはただ平和が得たいばかりに、自己の個人性を全滅させました。それが大失錯で、夫の要求は次第に大きくなるばかりでございます。今日のところでは、わたくしは主人に屈従している賄方のようなものでご・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・減刑運動という名のもとに、日本のまちがった民族主義の思想がふたたびうごめき出し、戦争挑発が拡大するような事態を許すならば、わたしたち人民の譲歩は、度をこしている。満州侵略に着手した田中義一の内閣に外交官であった吉田茂が、この減刑運動を、国内・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・日本の新聞は、なんと恥しらずに戦争挑発をしているでしょう。アメリカの科学者たちが、アインシュタインをはじめとして、人類の平和のための原子力の使いかたを主張していることは、くりかえして報道しないで、こんどは原子力よりももっと殺戮力のつよい放射・・・ 宮本百合子 「新しい卒業生の皆さんへ」
・・・その記念日にあたって、わたしたちが力をつくして闘い、抵抗しなければならないのが国の内外にあらわになって来ているファシズムであり、戦争挑発であるということは、実に感慨無量のことです。 日本のファシズムは、本年に入ってから、特に国鉄をはじめ・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・こんにち、かつての大東亜圏の理論家のあるものは、きわめて悪質な戦争挑発者と転身して、反民主的な権力のために奉仕している。「プロレタリア文学における国際的主題について」は、それらの問題についてある点を語っているが、この評論のなかには、きょ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
出典:青空文庫