・・・だれからもきれいとほめられる容貌と毛皮をもって、敏捷で典雅な挙止を示すと同時に、神経質な気むずかしさをもっていた。もちろん家族の皆からかわいがられ、あらゆる猫へのごちそうと言えばこの三毛のためにのみ設けられた。せっかく与える魚肉でも少し古け・・・ 寺田寅彦 「備忘録」
・・・自分はすぐ重吉の挙止動作がふだんにたいていはまじめであるごとく、この問題に対してもまたまじめであるのを発見した。そうして過渡期の日本の社会道徳にそむいて、私の歩を相互に進めることなしに、意志の重みをはじめから監督者たる父母に寄せかけた彼の行・・・ 夏目漱石 「手紙」
・・・マナーが――態度及び挙止動作が――ノッペリしている人間で、手を出して握手をしたりする。下層社会の女などがよくあの人は様子が宜いということをいうが、様子が宜い位で女に惚れられるのは、男子の不面目だと思います。様子が宜いというのは、人を外らさな・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
・・・千代の優婉らしい挙止の裡にはさほ子が圧迫を感じる底力があった。千代の方は一向平然としている丈、さほ子は神経質になった。 千代を傍観者として後片づけをしていると、良人は、さほ子に訊いた。「どうだね?」 気づかれのした彼女は、ぐった・・・ 宮本百合子 「或る日」
・・・ 舞台上の人物として柄の大きいこと、地が男である為、扮装にも挙止にも殊に女性の特徴を強調しつつ、何処かに底力のある強さ、実際にあてはめて見ると、純粋の女でもなし、男でもないと云う一種幻想的な特殊の美が醸される点などは、場合によって、多く・・・ 宮本百合子 「気むずかしやの見物」
・・・ 彼等は、外から見ては一点非のうちどころのないばかりか、その怜悧らしい、訓練のある挙止は快いものです。けれども、彼等の母ロザリーは、暫く彼等と朝夕を倶にして見ると、いくら食べても満足することのない見事な料理を押しつけられているような奇怪・・・ 宮本百合子 「「母の膝の上に」(紹介並短評)」
・・・重吉の感じる共感が響いているのであった。あるときに、ひろ子を殆ど涙ぐませるのは、その共感に応える重吉の態度の諄朴さと、普通にない世馴れなさであった。重吉の挙止には、ひそめられている限りない歓喜と初々しさと、万事につき、見当のつかないところが・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・日本文化輸出熱は、その本質において、残念ながら多くは外国の人々の日本に関する不十分な先入感、お蝶さん的趣味に追随した程度のものであるから、日本文化と称するものの輸出熱が嵩じれば嵩じる程、一層現実日本の挙止が日常に与えつつある印象と日本的と称・・・ 宮本百合子 「「迷いの末は」」
・・・男女関係で、獣の牡牝にひとしい挙止を見た日本の自然主義の作家たちは、我知らずこれまでの日本の男らしい立場で、そのような牡である自身を人間的な悲愴さで眺め解剖しつつ、そういう牡である男に対手となる女が、はたして男が牡であると同量にあるいはその・・・ 宮本百合子 「若き世代への恋愛論」
出典:青空文庫