・・・臭き頭をはなたれば、沙に金を振替へ、石に玉をあきなへるが如し。」 彼は刑場におもむく前、鎌倉の市中を馬に乗せられて、引き回されたとき、若宮八幡宮の社前にかかるや、馬をとめて、八幡大菩薩に呼びかけて権威にみちた、神がかりとしか思えない寓諫・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・世界の文化の問題から見れば、イタリーの一般知識人の中にあるハケ口のない脱出の欲求が、外から却って彼等を脱出せしめざる方向へ振り替えられていることが、関心事であろうと思う。「リビヤ白騎隊」が芸術的に弱いロマンティシズムに捕われながら、手法・・・ 宮本百合子 「イタリー芸術に在る一つの問題」
・・・ 昨夜の夕刊には、大蔵省の初の月給振替払いの日のことがのっていた。月給百五十円以上の人々は、現金としては半額しか入っていない月給袋をうけとった。すぐ振替えをとることが出来るのだそうだけれど、私たちは閃くような思いで、うちはどうするのだろ・・・ 宮本百合子 「家庭と学生」
・・・すぐ振替えをとることが出来るのだそうだけれど、私たちは閃くような思いで、うちはどうするのだろう、と考える。先日の新聞には、月給百五十円の人の家計は昨今五十円ずつ足を出して、それは赤字となっていることが報告されていた。私たちはみんな自分の実際・・・ 宮本百合子 「家庭と学生」
出典:青空文庫