・・・戦争とか豊作とか饑饉とか、すべてある偶然の出来事の発生するでなければ振興する見込のない一般経済界の状態は何を語るか。財産とともに道徳心をも失った貧民と売淫婦との急激なる増加は何を語るか。はたまた今日我邦において、その法律の規定している罪人の・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・国際文化振興会なぞをたよらずに異国へわれらの芸術をわれらの手で知らせてやろう。資金として馬場が二百円、私が百円、そのうえほかの仲間たちから二百円ほど出させる予定である。仲間、――馬場が彼の親類筋にあたる佐竹六郎という東京美術学校の生徒をまず・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
・・・たりしながらいわゆる正風を振興したのであった。現在のチューインガムも、それが噛み尽されて八万四千の毛孔から滲み出す頃には、また別な新しい日本文化となって栄えるのかもしれないのである。 寺田寅彦 「チューインガム」
・・・外務省の国際文化振興会にしても、日本の自然の美しさを高価なグラビア版にうつしたり、雛祭りの飾りを紹介したりして、日本の文化的優越を示そうとした。 日本精神という四字が過去十数年間、その独断と軍国主義的な狂言で、日本の精神の自然にのびてゆ・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・ レーニンはソヴェト同盟が重工業を振興させ、労働の生産力・技術を増大させることによって、実力的にヨーロッパ資本主義国を追いぬかなければならないという点に、絶えず全ソヴェトのプロレタリアートの注意を引きつけて来た。五ヵ年計画の基礎はこの線・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ソヴェトの生産振興の為の五ヵ年計画は一一〇パーセントの全生産拡張プランとともに生活全線を社会主義再建設に向って勇敢にねじ向けてしまった。―― が、そのことは又別に話すとして、地図にかえろう。我々はモスクワ市の環状ブルワールを見つけたい。・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・最も肉体的表情であって翻訳を必要としないスポーツで日本は世界の最前列に伍していることや、所謂躍進日本の他の一面としての文化紹介を欲する政府当局の意嚮などが、外務省文化事業部へ反響して、先ず国際文化振興会が半官的な組織で成立し、つづいて島崎藤・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・は、ともかくその内容も、様式も世界文学に類のないものだから、あれがいちばんいいと考えて、外務省の国際文化振興会ですか、ああいうところで「源氏物語」をいろいろな形で断片的にも紹介しました。この間ソヴェトの作家シーモノフ氏に会いましたとき、日本・・・ 宮本百合子 「婦人の創造力」
・・・三木清氏等によって、明治以来、政府は文化政策というのを持たなかったと云われ、アカデミーの問題も今日そこのことからふれられているのであるが、明治初期から文化振興のための政策はなかったかもしれないが、その或る面を罰することには決して吝でなかった・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・そういう、日本の面と、能や端午の節句や桜花爛漫を撮影している国際文化振興会などの、日本紹介映画との間に、どういう血が通っているか。否、普通日本人と呼ばれている多数のものの平凡で苦労の多い実生活の裡にこの二面はどんな形で、どんな有機性で渾然と・・・ 宮本百合子 「「迷いの末は」」
出典:青空文庫