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・・・私は自己の階級に対してみずから挽歌を歌うものでしかありえない。このことについては「我等」の三月号にのせた「雑信一束」にもいってあるので、ここには多言を費やすことを避けよう。 私の目前の落ち着きどころはひっきょうこれにすぎない。ここに至っ・・・
有島武郎
「想片」
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・・・あとで聞いたら、その独唱者は音楽学校の教師のP夫人で、故人と同じスカンジナビアの人だという縁故から特にこの日の挽歌を歌うために列席したのであったそうである。ただその声があまりに強く鋭く狭い会堂に響き渡って、われわれ日本人の頭にある葬式という・・・
寺田寅彦
「B教授の死」