・・・で、しおしおその日は帰りまして、一杯になる胸を掻破りたいほど、私が案ずるよりあの女の容体は一倍で、とうとう貴方、前後が分らず、厭なことを口走りまして、時々、それ巡査さんが捕まえる、きゃっといって刎起きたり、目を見据えましては、うっとりしてい・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・「私には、あの鳥を捕まえることもできますが、今日はそんなことをいたしません。」と、子供は答えました。「なんで、おまえは捕まえてみせないのだ?」「私は、ただ赤い鳥をここへ呼んだばかりです。」「捕まえてみせなければ、金をやらない・・・ 小川未明 「あほう鳥の鳴く日」
・・・逃げだすパルチザンを捕まえるためだ。 カーキ色の軍服がいなくなった村は、火焔と煙に包まれつつ、その上から、機関銃を雨のようにばらまかれた。 尻尾を焼かれた馬が芝生のある傾斜面を、ほえるように嘶き、倒れている人間のあいだを縫って狂的に・・・ 黒島伝治 「パルチザン・ウォルコフ」
・・・しかし捕まえるものがないから、しだいしだいに水に近づいて来る。いくら足を縮めても近づいて来る。水の色は黒かった。 そのうち船は例の通り黒い煙を吐いて、通り過ぎてしまった。自分はどこへ行くんだか判らない船でも、やっぱり乗っている方がよかっ・・・ 夏目漱石 「夢十夜」
・・・つよい――心も、或は慾情も――男が彼女を捕まえる。なかなか幸福にはなれず――朗々とした。石原とのいきさつも叙情的幸福。 ×夏目漱石の墓 アドバンテージ 妻君 門下 故先生 Сижки Су・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・ ころげるようにして、小屋へ馳けつけた彼は、いきなり出ようとする空椅子を捕まえると、ギューギュー自分の体を押しつけながら、「乗せてくんろ! よ、おじちゃん。 俺らこれさのせてくろよ!」と叫んだ。「まあこの餓鬼あ! あ・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
出典:青空文庫