・・・いったいならば、憲兵がこちらへ捜査に来る筈なのですが、この大雪で、どうにもならぬ。依って、まず先に内々の捜査を言いつけて来たのです。それで私は、あなたに一つ、お願いがあるのです。」 圭吾ってのは、どんな男だか、あなたなどは東京にばかりい・・・ 太宰治 「嘘」
・・・私は、ズボンのポケットに両手をつっこみ、同じ地点をいつまでもうろうろ歩きまわり、眼のまえの海の形容詞を油汗ながして捜査していた。ああ、作家をよしたい。もがきあがいて捜しあてた言葉は、「江の島の海は、殺風景であった」私はぐるっと海へ背をむけた・・・ 太宰治 「狂言の神」
・・・祖父は、たちまち次男の嘘を看破し、次女に命じて、次男の部屋を捜査させた。次女は、運わるくそのメダルを発見したので、こんどは、次女に贈呈された。祖父は、この次女を偏愛している様子がある。次女は、一家中で最もたかぶり、少しの功も無いのに、それで・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・その電話は八王子管理部から国警本部へ入ったものであるが、この電話の「入手径路は捜査されていない」。この電話でみれば、何処よりも先に国警本部が事件の起きることを予知していたわけです。電車がぶつかってめちゃめちゃになった三鷹の交番に警官は一人も・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・そして逮捕の理由を追求する被告に対して「捜査官は容疑の点というものはタネだ。タネをあかすことはできない。」渡辺警部はしきりに若い清水の意気をくじくための刺戟を与えた。共産党の「あの悪らつなやり方をみよ。都庁の事件をみろ。あれはお前の仲間がや・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・この事件で検事局が警視庁の捜査本部へ殺人の方向で進めてくれと特に注文をつけ、捜査本部はかならずしも同調しなかったことは世人の記憶にあたらしい事実である。『読売新聞』は一貫して犯罪性を強調し、この裏に共産党ありと、あすにも犯人があがりそう・・・ 宮本百合子 「犯人」
・・・ 一八九八年、ゴーリキイは憲兵に家宅捜査をされた後検束されチフリスへ送られた。検挙は九年前にうけたのと二度目である。革命運動をしたというのであったが、証拠がなくて許された。 一九〇一年、ゴーリキイは初めてペテルブルグに現れた。今は誰・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
出典:青空文庫