・・・静かな田舎で地味な教師をして、トルストイやドストエフスキーやロマン・ローランを読んだりセザンヌや親鸞の研究をしたり、生徒に化学などを授けると同時に図画を教えたり、時には知人の肖像をかいてやったりするような生活は、おそらく亮が昔から望んでいた・・・ 寺田寅彦 「亮の追憶」
・・・そうしたら受ける身も授ける身も今までのように冷かになっていないで、到る処生きた人間に逢われよう。(死は冷然として取り合わぬ様子ゆえ、主人は次第に恐を抱どうぞどうぞ思い返して見てくれい。お前は己が愛をも憎をも閲して来たように思うであろうが、己・・・ 著:ホーフマンスタールフーゴー・フォン 訳:森鴎外 「痴人と死と」
・・・ 十一月号の『漁村』には、各県の漁業の合理化の方策がのせられていて、婦人に関する項目として、陸上の仕事はなるたけ婦人にさせること、日常生活の合理化を教え、衛生、育児の知識を授けること、女子漁民道場をこしらえて漁村婦女の先駆者たらしめるこ・・・ 宮本百合子 「漁村の婦人の生活」
・・・個性の上に温かいはぐくみを持たない今の教育は、綜合的な人間常識を授けるにとどまって、その人の持っている質の善悪にまで敷衍されていないからです。その点から一面、人間中心芸術中心の天才教育があってもよいと思います。 芸術家としての素質に就い・・・ 宮本百合子 「女流作家として私は何を求むるか」
・・・ロシアの支配者は人民に学問や現実的な知識を授ける代りに、高い税で政府がしこたま儲けつづけた火酒と、封建的な絶対服従にあきらめる思いを祈祷の文句で、人民の精神に植えつける僧侶とをあてがった。 女と男との地位は、ひどく男尊女卑だった。人民―・・・ 宮本百合子 「プロレタリア婦人作家と文化活動の問題」
・・・己は遣って来る人の性質や伎倆や境遇を見て、その人に出来そうな為事を授けるのだ。それで成功したものが、これまでに随分あるよ。妻がいつも傍で聞いていてそういうのだ。あなたそんなにお金になるような事を沢山知っていらっしゃるなら、御自分で少しして御・・・ 森鴎外 「里芋の芽と不動の目」
出典:青空文庫