・・・渠はその壮時において加賀の銭屋内閣が海軍の雄将として、北海の全権を掌握したりし磁石の又五郎なりけり。 泉鏡花 「取舵」
・・・数十年 縦ひ妖魔をして障碍を成さしむるも 古仏因縁を証する無かるべけん 明珠八顆都て収拾す 想ふ汝が心光地に凭て円きを 里見義成依然形勝関東を控ふ 剣豪犬士の功に非ざる無し 百里の江山掌握に帰す 八州の草本威風に偃す 驕将敗・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・しかし博士でなければ学者でないように、世間を思わせるほど博士に価値を賦与したならば、学問は少数の博士の専有物となって、僅かな学者的貴族が、学権を掌握し尽すに至ると共に、選に洩れたる他は全く一般から閑却されるの結果として、厭うべき弊害の続出せ・・・ 夏目漱石 「博士問題の成行」
・・・これすなわち宗祖家康公が小身より起りて四方を経営しついに天下の大権を掌握したる所以にして、その家の開運は瘠我慢の賜なりというべし。 左れば瘠我慢の一主義は固より人の私情に出ることにして、冷淡なる数理より論ずるときはほとんど児戯に等しとい・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・山林の自然発火から学んで、めいめいの小舎の炉ばたにまでもちきたされるようになった火というもの、文明の源泉を人間が掌握したおどろきとよろこびを、プロメシウスの物語は力づよく語っている。 私たちの生きている今日という時代には、できあいの智慧・・・ 宮本百合子 「いのちのある智慧」
・・・大名と武士とが結合して権力を掌握し、近代化そうとした日本の明治政府が、地主・軍人の保守性、侵略性をもって出発したことは、明らかな必然である。市民階級が擡頭して作った近代ヨーロッパ社会と全然ちがう半封建の明治がはじまった。 明治の大啓蒙家・・・ 宮本百合子 「木の芽だち」
・・・日本の新首相のように、へたぐされしてばたばたと墜ちてゆく諸政党のわきにひかえて、時期を待っていて、政権掌握をしたのでもなかった。トルーマンには民主党のタフト・ハートレー法の撤廃、人種差別の撤廃、物価引き下げ、強国間の協力推進という、明白な綱・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・人間が人間を生かし殺す力の媒介物たる金銭というものの魔術性をあらわにし、それが近代社会を支配する大怪物として蓄積されてゆく過程を明らかにして、人間性の勝利の実質、生産する者が生産を掌握することの自然さを示した社会科学者たちの業績と、それを実・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・帝政ロシアの権力が武力で、絹、皮革の産地チフリース、石油のバクー市を掌握するための近路として拵えたものなのだ。 近東の少数民族の大衆は、灼けつく太陽の熱や半年もつづく長い冬の中で原始的な手工業、地方病と、封建的地主、親方の二重の搾取の下・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・その生産における一般的関係、その工場だけの独特な条件、それを掌握する革命的ウダールニクの活動とその間に起るさまざまな插話等を、共力して芸術的記録にまとめ上げてゆく仕事だ。これはねうちがある。こういう文学的共働は、例えば「ラップ」の作家たちが・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
出典:青空文庫