・・・彼の爾後の作家生涯は、その善を探求すべき労作だったと称しても好い。この道徳的意識に根ざした、リアリスティックな小説や戯曲、――現代は其処に、恐らくは其処にのみ、彼等の代弁者を見出したのである。彼が忽ち盛名を負ったのは、当然の事だと云わなけれ・・・ 芥川竜之介 「「菊池寛全集」の序」
・・・今日の文化の段階にまで達したる人間性の精神的要素と、ならびに人間性に禀具するらしい可能的神秘の側面で、われわれの恋愛の要請とは一体どんなものであるかを探求するのこそ進歩的恋愛論の本質的任務でなくてはならぬ。これに比べれば恋愛の社会的基礎の討・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・鎌倉の五年間に彼は当時鎌倉に新しく、時を得て流行していた禅宗と浄土宗との教義と実践とを探求し、また鎌倉の政治の実情を観察した。彼の犀利の眼光はこのときすでに禅宗の遁世と、浄土の俗悪との弊を見ぬき、鎌倉の権力政治の害毒を洞察していた。二十・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・を求めて、宗教的方法の探求へと向かったものであった。 がここでいいたいのは、かような指導書の精読ということである。かような指導書を発見するには、自分の生の問いを抱いて、その問いを同じくし、解決を与えんと擬する書物を捜せばいいのである。・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・市民を嘲って芸術を売って、そうして、市民と同じ生活をしているというのは、なんだか私には、不思議な生物のように思われ、私はそれを探求してみたかったという、まあ、理窟を言えばそうなるのですが、でも結局なんにもならなかった。なんにも無いのね。めち・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・こういう意味からすれば科学者の探求的欲望は骨董狂の掘出し慾と類する点があると云われ得る。しかしまた他の半面の考え方によれば、科学者の知識は「物自身」の知識ではなくて科学者の頭脳から編み上げた製作物とも云われる。そう考えれば科学者の欲求は芸術・・・ 寺田寅彦 「科学上の骨董趣味と温故知新」
・・・ 社会の風教を乱すような邪教淫祠、いかがわしい医療方法や薬剤、科学の仮面をかぶった非科学的無価値の発明や発見、そういうものに世人の多くが迷わされて深入りしない前にそれらの真価を探求したい。官衙や商社における組織や行政の不備や吏員の怠慢に・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
・・・右の如くなるを以て、すべて我々の真理探求は、否定的分析、懐疑的自覚といってよい。科学は単なる判断的否定でもなければ、分析でもない。科学的否定とは、行為的直観の立場から我々の自己の因襲的な先入見、独断を否定することでなければならない。分析はデ・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・メーン・ドゥ・ビランはパスカルが賞讚するといった ceux qui cherchent en gmissant[うめきながら探求する者]というような哲学者であった。「センス」でもない「ジン」でもない「サンス」は、一面において内面的と・・・ 西田幾多郎 「フランス哲学についての感想」
・・・けれどもそれでも探求の目的を達することは達するな。少し歩きにくいだけだ。さあもう斯うなったらどこまでだって追って行くぞ。」学士はいよいよ大股にその足跡をつけて行った。どかどか鳴るものは心臓ふいごのようなものは呼吸、そんな・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
出典:青空文庫