・・・こう云えば勿論縁談の橋渡しには、その骨董屋のなったと云う事も、すぐに御推察が参るでしょう。それがまた幸いと、即座に話がまとまって、表向きの仲人を拵えるが早いか、その秋の中に婚礼も滞りなくすんでしまったのです。ですから夫婦仲の好かった事は、元・・・ 芥川竜之介 「開化の良人」
・・・……今後もし夫人を離婚せられずんば、……貴下は万人の嗤笑する所となるも……微衷不悪御推察……敬白。貴下の忠実なる友より。」 手紙は力なく陳の手から落ちた。 ……陳は卓子に倚りかかりながら、レエスの窓掛けを洩れる夕明りに、女持ちの金時・・・ 芥川竜之介 「影」
・・・感じの早いあの人は、そう云う私の語から、もし万一約束を守らなかった暁には、どんなことを私がしでかすか、大方推察のついた事であろう。して見れば、誓言までしたあの人が、忍んで来ないと云う筈はない。――あれは風の音であろうか――あの日以来の苦しい・・・ 芥川竜之介 「袈裟と盛遠」
・・・保吉は多分犬のいるのは窓の下だろうと推察した。しかし何だか変な気がした。すると主計官はもう一度、「わんと云え。おい、わんと云え」と云った。保吉は少し体をねじ曲げ、向うの窓の下を覗いて見た。まず彼の目にはいったのは何とか正宗の広告を兼ねた、ま・・・ 芥川竜之介 「保吉の手帳から」
・・・兄はこの気持ちを推察してくれることができるとおもう。ここまでいうと「有島氏が階級争闘を是認し、新興階級を尊重し、みずから『無縁の衆生』と称し、あるいは『新興階級者に……ならしてもらおうとも思わない』といったりする……女性的な厭味」と堺氏の言・・・ 有島武郎 「片信」
・・・ けれども、それもただわずかの間で、今の思はどうおいでなさるだろうと御推察申上げるばかりなのです。 自白した罪人はここに居ります。遁も隠れもしませんから、憚りながら、御萱堂とお見受け申します年配の御婦人は、私の前をお離れになって、お・・・ 泉鏡花 「革鞄の怪」
・・・ 推察に難くない。いずれかの都合で、新しい糸塚のために、ここの位置を動かして持運ぼうとしたらしい。 が、心ない仕業をどうする。――お米の羽織に、そうして、墓の姿を隠して好かった。花やかともいえよう、ものに激した挙動の、このしっとりし・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
・・・母の推察通り、棉は末にはなっているが、風が吹いたら溢れるかと思うほど棉はえんでいる。点々として畑中白くなっているその棉に朝日がさしていると目ぶしい様に綺麗だ。「まアよくえんでること。今日採りにきてよい事しました」 民子は女だけに、棉・・・ 伊藤左千夫 「野菊の墓」
・・・ひょッとしたら、これがすなわち区役所の役人で、吉弥の帰京を待っている者――たびたび花を引きに来るので、おやじのお気に入りになっているのかも知れないと推察された。 一四 その跡に残ったのはお袋と吉弥と僕との三人であった・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・復た例の癖が初まったナと思いつつも、二葉亭の権威を傷つけないように婉曲に言い廻し、僕の推察は誤解であるとしても、そうした方が君のための幸福ではない乎と意中の計画通りを実行させようとした。が、口を酸くして何と説得しても「ンな考は毛頭ない、」と・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
出典:青空文庫