・・・しかしわれわれはそのときのカーライルの心中にはいったときには実に推察の情溢るるばかりであります。カーライルのエライことは『革命史』という本のためにではなくして、火にて焼かれたものをふたたび書き直したということである。もしあるいはその本が遺っ・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・わたくしはあなたの人柄を推察して、こう思います。あなたは決して自分のなすった事の成行がどうなろうと、その成行のために、前になすった事の責を負わない方ではありますまい。またあなたは御自分に対して侮辱を加えた事のない第三者を侮辱して置きながら、・・・ 著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外 「女の決闘」
・・・けれども、ウォルコフは、犬どもの、威勢が、あまりによすぎることから推察して、あとにもっと強力な部隊がやって来ていることを感取した。 村に這入ってきた犬どもは、軍隊というよりは、むしろ、××隊だった。彼等は、扉口に立っている老婆を突き倒し・・・ 黒島伝治 「パルチザン・ウォルコフ」
・・・ 見た訳ではないが情態は推察出来る。それだのに、ナーニ、俺が馬鹿なんだ、というこの一語でもって自分の問に答えたこの児の気の動き方というものは、何という美しさであろう、我恥かしい事だと、愕然として自分は大に驚いて、大鉄鎚で打たれたような気・・・ 幸田露伴 「蘆声」
・・・わたくしはあなたの人柄を推察して、こう思います。あなたは決して自分のなすった事の成行がどうなろうと、その成行のために、前になすった事の責を負わない方ではありますまい。又あなたは御自分に対して侮辱を加えた事の無い第三者を侮辱して置きながら、そ・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・まあ、御推察を願います。」「それは、よかった。まとめてやったら、どうですか。」「僕ひとりでは駄目です。あなたにも御助力ねがいたい。きょうこれから先方へ、申込みに行こうと思っているのですが、あなたのところに大隅さんの最近の写真がありま・・・ 太宰治 「佳日」
・・・色様様の推察が捲き起ったのだけれども、そのことごとくが、はずれていた。誰も知らない。みやこ新聞社の就職試験に落第したから、死んだのである。 落第と、はっきり、きまった。かれら夫婦ひと月ぶんの生活費、その前夜に田舎の長兄が送ってよこした九・・・ 太宰治 「狂言の神」
・・・ わたくしは近年市街と化した多摩川沿岸、また荒川沿岸の光景から推察して、江戸川東岸の郊外も、大方樹木は乱伐せられ、草は踏みにじられ、田や畠も兵器の製造場になったものとばかり思込んでいたのであるが、来て見ると、まだそれほどには荒らされてい・・・ 永井荷風 「葛飾土産」
・・・さればそれより以前には、浅草から吉原へ行く道は馬道の他は、皆田間の畦道であった事が、地図を見るに及ばずして推察せられる。『たけくらべ』や『今戸心中』のつくられた頃、東京の町にはまだ市区改正の工事も起らず、従って電車もなく、また電話もなか・・・ 永井荷風 「里の今昔」
・・・みたようなものを、ことさらによそから連れて来て、講演を聴こうとなされるのは、ちょうど先刻お話したお大名が目黒の秋刀魚を賞翫したようなもので、つまりは珍らしいから、一口食ってみようという料簡じゃないかと推察されるのです。実際をいうと、私のよう・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
出典:青空文庫