・・・あるいは多分、もっと確実な推測として、切支丹宗徒の隠れた集合的部落であったのだろう。しかし宇宙の間には、人間の知らない数々の秘密がある。ホレーシオが言うように、理智は何事をも知りはしない。理智はすべてを常識化し、神話に通俗の解説をする。しか・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
・・・「女の手紙の意味は読んで知れるものでは無い。推測しなくてはならない。たいていわざと言わずにあるところに、本意は潜んでいるものである。」 マドレエヌの手紙の中で、一番注意してみなくてはならぬ処は二白である。法律顧問を託する女が媚を呈するよ・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・時はたって、秋風がふきそめるきのうきょう、この不可解な状態のかげにひそむ一つの理由として生活的な問題がおいおい一般の推測に浸透してきた。丸の内の宏壮な建物を見てもわかるように、保険会社は富んでいるものだが、現在、生命保険会社の支払い方法は、・・・ 宮本百合子 「権力の悲劇」
・・・二十二年度の勤労者家計が、前より「二〇%前後改善されていることが推測できる」そして二十三年度は「工業生産が三〇%程度の増加を期待される。生産の増加が勤労者の生活内容を改善する根本的な要素であるとすれば、三〇%の生産増加が勤労者家計を相当程度・・・ 宮本百合子 「ほうき一本」
・・・ それは、御者も商売からまるで間違った推測をしたのではなかった。この外国女は、第一ひどく急いでいるんだ、芝居へ行こうとしているんだと。サドーヤにはメイエルホリド座がある。写実劇場がある。オペレット劇場がある。実際日本女は写実劇場でもう坐・・・ 宮本百合子 「モスクワの辻馬車」
・・・しかしそれは推測を誤って居る。敵が鴎外と云う名を標的にして矢を放つ最中に、予は鴎外という名を署する事を廃めた。矢は蝟毛の如く的に立っても、予は痛いとも思わなかった。人が鴎外という影を捉えて騒いだ時も、その騒ぎの止んだ後も、形は故の如くで、我・・・ 森鴎外 「鴎外漁史とは誰ぞ」
・・・その日本語でこう言うだろうと云う推測は、無論私の智識、私の材能に限られているから、当るかはずれるか分らない。しかし私に取ってはこの外に策の出だすべきものが無いのである。それだから私の訳文はその場合のほとんど必然なる結果として生じて来たもので・・・ 森鴎外 「訳本ファウストについて」
・・・その閲歴から見て狂熱的な一向宗信者であったと推測せられるが、しかしキリシタンの宣教師の報告によると、家康の重臣中では彼が最もキリシタンに同情を持っていたという。慶長六年には彼はオルガンチノに対してキリシタンをほめ、その解禁のために尽力した。・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・であったということは右の印象からも推測せられるであろう。 先生が明治初年の排仏毀釈の時代にいかに多くの傑作が焼かれあるいは二束三文に外国に売り払われたかを述べ立てた時などには、実際我々の若い血は沸き立ち、名状し難い公憤を感じたものである・・・ 和辻哲郎 「岡倉先生の思い出」
・・・これは私の推測である。しかしこの推測なくしては私は古代の芸術をも文化をも解することができない。 もとより私は当時の人々のすべてがこうであったというのではない。私はただ代表的な場合について考察しているのである。しかしすでに当時の有力な・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
出典:青空文庫