・・・が、半三郎の日記の中でも最もわたしを驚かせたのは下に掲げる出来事である。「二月×日 俺は今日午休みに隆福寺の古本屋を覗きに行った。古本屋の前の日だまりには馬車が一台止まっている。もっとも西洋の馬車ではない。藍色の幌を張った支那馬車である・・・ 芥川竜之介 「馬の脚」
・・・僕はかなり逐語的にその報告を訳しておきましたから、下に大略を掲げることにしましょう。ただし括弧の中にあるのは僕自身の加えた註釈なのです。―― 詩人トック君の幽霊に関する報告。 わが心霊学協会は先般自殺したる詩人トック君の旧居にして現・・・ 芥川竜之介 「河童」
・・・ * * * * * 一週間たった後、最高点を採った答案は下に掲げる通りである。「正に器用には書いている。が、畢竟それだけだ。」 親子 親は子供を養育するのに適しているかどうかは疑問である。成種牛馬は親・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
ある機会で、予は下に掲げる二つの手紙を手に入れた。一つは本年二月中旬、もう一つは三月上旬、――警察署長の許へ、郵税先払いで送られたものである。それをここへ掲げる理由は、手紙自身が説明するであろう。 第一の手・・・ 芥川竜之介 「二つの手紙」
・・・これから下に掲げるのはその時その友人が、歩きながら自分に話してくれた、その毛利先生の追憶である。―― ――――――――――――――――――――――――― もうかれこれ十年ばかり以前、自分がまだある府立中学の三年級・・・ 芥川竜之介 「毛利先生」
・・・料理屋が鶫御料理、じぶ、おこのみなどという立看板を軒に掲げる。鶫うどん、鶫蕎麦と蕎麦屋までが貼紙を張る。ただし安価くない。何の椀、どの鉢に使っても、おん羮、おん小蓋の見識で。ぽっちり三臠、五臠よりは附けないのに、葱と一所に打ち覆けて、鍋から・・・ 泉鏡花 「眉かくしの霊」
・・・余り名文ではないが、淡島軽焼の売れた所以がほぼ解るから、当時の広告文の見本かたがた全文を掲げる。私店けし入軽焼の義は世上一流被為有御座候通疱瘡はしか諸病症いみもの決して無御座候に付享和三亥年はしか流行の節は御用込合順番札にて差上候儀・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・ いまこゝでは、資本家等の経営する職業雑誌が、大衆向きというスローガンを掲げることの誤謬であり、また、この時代に追従しなければならぬ作家等が、資本家の意志を迎えて、いつしか真の芸術を忘れるに至ったことを指摘しようと思います。 先ず、・・・ 小川未明 「作家としての問題」
・・・には、Xの掲げるスローガンを具体的な主要なテーマとしてたくみに、えん曲に生かしている。こういう問題は、プロレタリア文学において、農民の生活を扱っても、もちろん、どんな困難をおかしても取りあげなければならないものである。小林多喜二の「不在地主・・・ 黒島伝治 「農民文学の問題」
・・・の全文章をここに掲げるにしのびない。阿呆の文章である。東条でさえ、こんな無神経なことは書くまい。甚だ、奇怪なることを書いてある。もうこの辺から、この作家は、駄目になっているらしい。 言うことはいくらでもある。 この者は人間の弱さを軽・・・ 太宰治 「如是我聞」
出典:青空文庫