・・・が、実はこの怪異を祈伏せようと、三山の法力を用い、秘密の印を結んで、いら高の数珠を揉めば揉むほど、夥多しく一面に生えて、次第に数を増すのである。 茸は立衆、いずれも、見徳、嘯吹、上髭、思い思いの面を被り、括袴、脚絆、腰帯、水衣に包まれ、・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・深田でもたいへん惜しがって、省作が出たあとで大分揉めたそうだ、親父はなんでもかでも面倒を見ておけというのであったそうな。それもこれもつまりおとよさんのために、省作も深田にいなかったのだから、おとよさんが親に棄てられてもと覚悟したのは決して浮・・・ 伊藤左千夫 「春の潮」
・・・総領の新太郎は道楽者で、長女のおとくは埼玉へ嫁いだから、両親は職人の善作というのを次女の千代の婿養子にして、暖簾を譲る肚を決め、祝言を済ませたところ、千代に男があったことを善作は知り、さまざま揉めた揚句、善作は相模屋を去ってしまった――。・・・ 織田作之助 「妖婦」
・・・大分いろいろと揉めて、女生徒たちはあれこれと脅かされたが、遂に譲らないので、さすがに軍法会議へまわすことも出来ず結着がついた。 そういう短い話を、間接にきいた。細かいことはもしかしたら事実と違っているかもしれない。けれどもあの戦争中・・・ 宮本百合子 「結集」
・・・成程、揉めた。ポリトフがやって来て地方委員会書記なんぞぬきに、皆をドナリつけた。誰も彼もコンムーナへ地面をだすことに同意した。みんな沸き立って喋ったけんど擲り合なんぞはなかったんだ」 革命までブリーノフは上ルジェンスキー村の中農で村では・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・あちらも、こちらも、大ごたつきに揉めて、つづまるところは、何かと云えば、それを、きっかけとして、農村では農民の自主的な組織や活動が圧殺され、都会では市民が所謂鎮圧されてしまう。やっと全人民が一歩をふみ出した民主の試みは、二歩と歩まぬうちに、・・・ 宮本百合子 「人民戦線への一歩」
・・・人工呼吸は、どうやるのだか分らないが、多分よく揉めばよいのだろうと、両手でもむ。「しかし、切身じゃあ人工呼吸もきかないかもしれないな」 切身にだんだん弾力がついて来る。いつか元の父になり「人工呼吸は利いてきたが、とても生きられな・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
出典:青空文庫