・・・その人たちにとっては、私の提議は半顧の価値もなかるべきはずのものだ。私はそれほどまでに真に純粋に芸術に没頭しうる芸術家を尊もう。私はある主義者たちのように、そういう人たちを頭から愚物視することはできない。かかる人はいかなる時代にも人間全体に・・・ 有島武郎 「広津氏に答う」
・・・晩年一部の好書家が斎展覧会を催したらドウだろうと鴎外に提議したところが、鴎外は大賛成で、博物館の一部を貸してもイイという咄があった。鴎外の賛成を得て話は着々進行しそうであったが、好書家ナンテものは蒐集には極めて熱心であっても、展覧会ナゾは気・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・余り評判にもならなかったが、那翁三世が幕府の遣使栗本に兵力を貸そうと提議した顛末を夢物語風に書いたもので、文章は乾枯びていたが月並な翻訳伝記の『経世偉勲』よりも面白く読まれた。『経世偉勲』は実は再び世間に顔を出すほどの著述ではないが、ジスレ・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・さりとて継母の提議に従って、山から材木を出すトロッコの後押しに出て、三十銭ずつの日手間を取る決心になったとして、それでいっさいが解決されるものとも、彼には考えられなかった。 初夏からかけて、よく家の中へ蜥蜴やら異様な毛虫やらがはいってき・・・ 葛西善蔵 「贋物」
・・・そのことについては吉田は自分のことも考え、また母親のことも考えて看護婦を呼ぶことを提議したのだったが、母親は「自分さえ辛抱すればやっていける」という吉田にとっては非常に苦痛な考えを固執していてそれを取り上げなかった。そしてこんな場合になって・・・ 梶井基次郎 「のんきな患者」
・・・近来大に進歩して、細君はこの提議をしたのである。ところが、「なぜサ。」と善良な夫は反問の言外に明らかにそんなことはせずとよいと否定してしまった。是非も無い、簡素な晩食は平常の通りに済まされたが、主人の様子は平常の通りでは無かった。激・・・ 幸田露伴 「鵞鳥」
・・・たとえば、宵の私の訪問をもてなすのに、ただちに奥さんにビールを命ずるお医者自身は善玉であり、今宵はビールでなくブリッジいたしましょう、と笑いながら提議する奥さんこそは悪玉である、というお医者の例証には、私も素直に賛成した。奥さんは、小がらの・・・ 太宰治 「満願」
・・・たとえば自分がかつて提議したような統計的方法でも、少なくも一つの試みとして試みなければならないと思う。上記の諸例はそういう方法を試みるであろう場合に必要な非常に多量な材料の中の二三の例として数えられるべきものであろうと思う。 もし許さる・・・ 寺田寅彦 「言葉の不思議」
・・・ 水道がこんなぐあいだと、うちでも一つ井戸を掘らなければなるまいという提議が夕飯の膳で持ち出された。しかしおそらくこの際同じような事を考える人も多数にあるだろう、従って当分は井戸掘りの威勢が強くてとてもわれわれの所へは手が回らないかもし・・・ 寺田寅彦 「断水の日」
・・・その後ウェストミンスター・アベーに記念の標石を納めようという提議が大学総長や王立協会会長などの間に持出され、その資金が募集された。標石の上の方には横顔を刻したメダリオンが付いている。レーリーの私淑したと思わるるトーマス・ヤングの記念標と丁度・・・ 寺田寅彦 「レーリー卿(Lord Rayleigh)」
出典:青空文庫