・・・ また諸君は、詩を詩として新らしいものにしようということに熱心なるあまり、自己および自己の生活を改善するという一大事を閑却してはいないか。換言すれば、諸君のかつて排斥したところの詩人の堕落をふたたび繰返さんとしつつあるようなことはないか・・・ 石川啄木 「弓町より」
一 一体宗教というものが科学によって破壊されるものかどうかと云うことが疑問だ。科学によって破壊されるような宗教は宗教ではない。換言すれば、知識によって破壊されるような信仰は信仰ということが出来ない。私は人間の安心というものが科学によ・・・ 小川未明 「反キリスト教運動」
・・・骨董が黄金何枚何十枚、一郡一城、あるいは血みどろの悪戦の功労とも匹敵するようなことになった。換言すれば骨董は一種の不換紙幣のようなものになったので、そしてその不換紙幣の発行者は利休という訳になったようなものである。西郷が出したり大隈が出した・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・人びとの遺伝の素質や四囲の境遇の異なるのにしたがって、その年齢は一定しないが、とにかく一度、健康・知識が旺盛の絶頂に達する時代がある。換言すれば、いわゆる、「働きざかり」の時代がある。故に、道徳・知識のようなものにいたっては、ずいぶん高齢に・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・老いて益々壯んなのは寧ろ例外で、或る齢を過ぎれば心身倶に衰えて行くのみである、人々の遺伝の素質や四囲の境遇の異なるに従って、其年齢は一定しないが、兎に角一度健康・精力が旺盛の絶頂に達するの時代がある、換言すれば所謂「働き盛り」の時代がある、・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・そのおかげで、何かの機会に蠅以外の媒介によって、多量のばいきんを取り込んだときでも、それにたえられるだけの資格がそなわっているのかもしれない。換言すれば、蠅はわれわれの五体をワクチン製造所として奉職する技師技手の亜類であるかもしれないのであ・・・ 寺田寅彦 「蛆の効用」
・・・ところでは、この映画の最もすぐれた長所であり、そうして容易にまねのできそうもないと思われる美点は、全巻を通じて流れている美しい時間的律動とその調節の上に現われたこの監督の鋭敏な肌理の細かい感覚である。換言すれば映画芸術の要素としての律動的要・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・てはそうしたかんばしくないものを、もう一ぺんひっくりかえして裏から見たときに、その背面から浮かび出して来る高次元に真なるもの純なるものの高次元の美しさおもしろさを認識することができるというのであろう。換言すれば、月並みな陳套な正札付きの真実・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(※[#ローマ数字7、1-13-27])」
・・・ 本当の科学を修めるのみならずその研究に従事しようというものの忘るべからざる事は、このような雷同心の芟除にある。換言すれば勉めて旋毛を曲げてかかる事である。如何なる人が何と云っても自分の腑に落ちるまでは決して鵜呑みにしないという事である・・・ 寺田寅彦 「科学上における権威の価値と弊害」
・・・しかし実際の探偵小説がそれほどに必然的な実証の連鎖を示しているかというと、そうではなくて、たいていの場合には、巧みにそうらしく見せているだけで、実は大きな穴だらけのものがはなはだ多い。換言すれば、実験は実験でも、ごまかしの実験である場合がは・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
出典:青空文庫