・・・その評論家の揶揄を受けたのは、――兎に角あらゆる先覚者は常に薄命に甘んじなければならぬ。 制限 天才もそれぞれ乗り越え難い或制限に拘束されている。その制限を発見することは多少の寂しさを与えぬこともない。が、それはいつの間・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・と揶揄ったのは十八九のどこと無く嫌味な女であった。 源三は一向頓着無く、「何云ってるんだ、世話焼め。」と口の中で云い棄てて、またさっさと行き過ぎようとする。圃の中からは一番最初の歌の声が、「何だネお近さん、源三さんに託け・・・ 幸田露伴 「雁坂越」
・・・事実また、それを揶揄し皮肉るのは、いい気持のものさ。けれども、その皮肉は、どんなに安易な、危険な遊戯であるか知らなければならぬ。なんの責任も無いんだからね。法律、制度、風俗、それがどんなに、くだらなく見えても、それが無いところには、知識も自・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・「葉ばかり伸びるものだから、私を揶揄なさっているのよ。ここの主人は、いい加減よ。私、ここの奥さんに気の毒なの。それや真剣に私の世話をして下さるのだけれども、私は背丈ばかり伸びて、一向にふとらないのだもの。トマトさんだけは、どうやら、実を・・・ 太宰治 「失敗園」
・・・僕は、それを揶揄、侮辱の言葉と思わなかったばかりか、ひょっとしたら僕はもう、流行作家なのかも知れないと考え直してみたりなどしたのだから、話にならない。みじめなものである。僕は酔った。惣兵衛氏を相手に大いに酔った。もっとも、酔っぱらったのは僕・・・ 太宰治 「水仙」
・・・有原も、その夜は、勝治をれいのように揶揄する事もせず、妙に考え込んで歩いていた。 老杉の陰から白い浴衣を着た小さい人が、ひょいとあらわれた。「あ、お父さん!」節子は、戦慄した。「へええ。」勝治も唸った。「散歩だ。」父は少し笑・・・ 太宰治 「花火」
・・・として起こされたいろいろの運動の試みがいわゆる前衛映画である。「アヴァンギァルドとは金にならぬ映画を作る人たちの仲間を言う」と揶揄した人がある。従来のこれらの試みは、すべてただ実験室的の意義しかないが、そういう意義においては尊重すべきもので・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・いつか、カナダのタール教授が来て氷河に関する話をしたときなど、ペンクは色々とディスクシオンをしながら自分などにはよく分らぬ皮肉らしいことを云って相手を揶揄しながら一座を見渡してにやりとするという風であった。 ペンクの講義は平明でしかも興・・・ 寺田寅彦 「ベルリン大学(1909-1910)」
・・・ ……それで仲間の奴等時々私を揶揄いやがる。息子が死んでも日本が克った方がいいか、日本が負けても、子息が無事でいた方が好いかなんてね。莫迦にしてやがると思って、私も忌々しいからムキになって怒るんだがね。」 悼ましい追憶に生きている爺・・・ 徳田秋声 「躯」
・・・然し瞽女の噂をして彼に揶揄おうとするものは彼の年輩の者にはない。随って彼の交際する範囲は三四十代の壮者に限られて居るのである。以前奉公して居た頃も稀には若い衆に跟いて夜遊びに出ることもあった。彼も他人のするように手拭かぶって跟いて行った。帰・・・ 長塚節 「太十と其犬」
出典:青空文庫