・・・それからしてジャーナリスト等は、三角関係の恋愛や情死者等を揶揄してニイチェストと呼んだ。 何故にニイチェは、かくも甚だしく日本で理解されないだらうか。前にも既に書いた通り、その理由はニイチェが難解だからである。たしかメレヂコフスキイだか・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
・・・ 彼女は寝台の端に腰をかけ、憤ったような揶揄うような眼付で、意地わるくじろじろ良人の顔を視た。「仰云る気がないのに、言葉が勝手にとび出したの?」「いつもいつも思っていたことが、はずみでつい出て仕舞ったのさ。僕は全く辛棒していたん・・・ 宮本百合子 「或る日」
・・・火野葦平が、文芸春秋に書いたビルマの戦線記事の中には、アメリカの空軍を報道員らしく揶揄しながら、日本の陸軍が何十年か前の平面的戦術を継承して兵站線の尾を蜒々と地上にひっぱり、しかもそれに加えて傷病兵の一群をまもり、さらに惨苦の行動を行ってい・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・丹羽文雄氏が、放蕩はしてもよそへ子供は拵えない、何しろ子供にはかなわないからね、というようなことを、その常套性と旧い態度とに対して揶揄的高笑いをうける気づかいなしに、二十歳前後の若い女の座談会で云っていられる状態なのである。『文芸』十月・・・ 宮本百合子 「鴎外・漱石・藤村など」
・・・ 現実は豊饒、強靭であって、作家がそれに皮肉さをもって対しても、一応の揶揄をもって対しても、大概は痛烈な現実への肉迫とならず、たかだか一作家のポーズと成り終る場合が非常に多い。作家は、現実に向って飽くまで探求的であり、生のままの感受性を・・・ 宮本百合子 「今日の文学と文学賞」
・・・ 十月二十五日から三月十八日 おらおっちぬよ、そんけ乗ったら、この年で…… これは、革命後ロシアではいろんな町名が変えられ、それが大抵世界のプロレタリアート革命運動に関係のある年月日、人名などを揶揄ったレーニングラード人の笑話である。・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・というものは、皮肉な、揶揄めいた表現に終るのである。 夫婦の間の財産処理について、また子供らの後見者として妻、母の権限がひろくなろうとしている。孤独な母、妻である多くの婦人は、これによっていくらか家族の間における立場を改善されるであろう・・・ 宮本百合子 「世界の寡婦」
・・・の健三とその妻との内的いきさつに進むと、漱石の態度は女は度し難いと男の知的優越に立って揶揄しているどころではなくなって来ている。「行人」の一郎が妻の心の本体をわがものとして知りたいと焦慮する苦しみは、見栄も外聞も失った恐ろしい感情の真摯さで・・・ 宮本百合子 「漱石の「行人」について」
・・・ 英本国とインドとの関係、それにつれてのインド王族らに対する外交的儀礼をケムブリッジの学生らの若さが揶揄するところ、到って興が深い。更にこれらの若者が長じていつしかこの市長の役を演ずるに至るであろう過程に於て、罪なき笑劇は悲劇にかわ・・・ 宮本百合子 「中條精一郎の「家信抄」まえがきおよび註」
・・・ 勝気な女らしく潔癖なYが、気味わるげに訊くので、私はふき出し、少し揶揄いたくなった。「そんなじゃあないわ。支那へ来たと思えばよすぎる位よ。――でも――いそうね」「何が」「なんきんむし」「御免、御免! 風呂とはばの穢いの・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
出典:青空文庫