・・・私立学校によくある通り、金持の娘達がまるで威張るのでロザリーのように学資の豊かでない、伯母のかかりうどの娘は、いろいろなことで、揶揄されたり、なぶり者にされたりしました。が、ロザリーは楽しく勉強をし、追々、人生に対して、はっきりした要求を持・・・ 宮本百合子 「「母の膝の上に」(紹介並短評)」
・・・ては、他にいくつかのことが考えられるであろうが、その一つとして、謂わば自分のうちの座敷へひとをよんでおいて、そこが自分のうちだというその場の気分的なものから妙に鼻ぱしをつよくして座談会の席上に嘲弄的、揶揄的口調を弄ぶようなことがあるとしたら・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・尚子は故意と揶揄するように、「今なら間に合う。早く塩原へ行ってらっしゃい」と云って笑った。 四 その時は釣り込まれて笑った。が、藍子は夕方小石川の二階へ帰って来て、新緑の若葉照りにつつまれて明るい山径と・・・ 宮本百合子 「帆」
・・・そのことをぺてん師の鑑定家の爺と番頭とがあくどく揶揄した。「さて、学問のあるお前のことだ。この問題を噛み分けて見な。ここに、千人の裸坊主がいる。五百人が女で、五百人が男だ。この中にアダムとエヴァがいるが、お前はどこで見分けるかい?」・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・良人仙吉とは文学の階級性についても違った考えをもっていて、過去においては信州のその村へも講演に行ったりした民子が、そういうとし子の出現につれて、彼女の当惑をどちらといえば揶揄する周囲の良人・良人の友達などに対する気がね、気づかいの感情もどこ・・・ 宮本百合子 「村からの娘」
・・・叔父は宇平を若殿々々と呼んで揶揄っているのである。「はい」と云ったりよは、その晩から宇平の衣類に手を着けた。 九日にはりよが旅支度にいる物を買いに出た。九郎右衛門が書附にして渡したのである。きょうは風が南に変って、珍らしく暖いと思っ・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・それから寄ってたかってお蝶を揶揄ったところが、おとなしいことはおとなしくても、意気地のある、張りの強いお蝶は、佐野と云うその書生さんの身の上を、さっぱりと友達に打ち明けた。佐野さんは親が坊さんにすると云って、例の殺生石の伝説で名高い、源翁禅・・・ 森鴎外 「心中」
・・・傍に頭を五分刈にして、織地のままの繭紬の陰紋附に袴を穿いて、羽織を着ないでいる、能役者のような男がいて、何やら言ってお酌を揶揄うらしく、きゃっきゃと云わせている。 舟は西河岸の方に倚って上って行くので、廐橋手前までは、お蔵の水門の外を通・・・ 森鴎外 「百物語」
・・・と、知人は揶揄半分に私に言った。 果して安国寺さんは私との交際を絶つに忍びないので、自分の住職をしていた寺を人に譲って、飄然と小倉を去った。そして東京で私の住まう団子坂上の家の向いに来て下宿した。素と私の家の向いは崖で、根津へ続く低地に・・・ 森鴎外 「二人の友」
・・・これは十九のとき漢学に全力を傾注するまで、国文をも少しばかり研究した名残で、わざと流儀違いの和歌の真似をして、同窓の揶揄に酬いたのである。 仲平はまだ江戸にいるうちに、二十八で藩主の侍読にせられた。そして翌年藩主が帰国せられるとき、供を・・・ 森鴎外 「安井夫人」
出典:青空文庫