・・・ 沢山の洗濯物が部屋の天井からぶら下り、赤坊の揺り籠が隅においてある。そういうドミトリーの室では、遊びに来て喋り込んでいた女房を追いかけて、例のボルティーコフがあばれ込んで来ているところであった。「畜生! 上向けば女! 見下しゃ女!・・・ 宮本百合子 「「インガ」」
・・・銀鼠色の木綿服を着た若いアクスーシャとピョートルは、流れる手風琴の音につれて、そのブランコを揺りながら、今にも目にのこる鮮やかで朗らかな愛の場面を演じた。 第二芸術座、ワフタンゴフ劇場、カーメルヌイ劇場、諷刺劇場は、舞台を飾ることそのも・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・ そして、七匹の青蜘蛛が張りわたしている絃を掻き鳴らし始めると、二人のお爺さんは、睡蓮の花を静かに左や右に揺り、いっぱいに咲きこぼれている花々の蕋からは、一人ずつの類もなく可愛らしい花の精が舞いながら現われて来ました。 目に見えない・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・ 習慣的に夜着から手を出して赤い掛布団の上をホトホトと叩きつけてやりながらも、ぬくもい気持で持ち上げた頭をフラフラと夢心地で揺り未だ寝て居たい気持と、皆困って居るのだからもう起きてやりましょうと思う心とが罪のない争闘を起し始めたのを感じ・・・ 宮本百合子 「二月七日」
・・・ 自分のすぐ傍を、小じんまりした形の好い形を左右に揺りながら、さも嬉しそうについて来る雌鴨を、目を大きくしてながめると、一杯にこみあげて来る満足を押え切れない様に、若い雄鴨は大羽ばたきをして、笛の様に喉をならした。「まあ、其那声・・・ 宮本百合子 「一条の繩」
・・・ヤコヴ・シュモフは、ゴーリキイの心に「穏やかならぬ複雑な感情を残して、熊のように体を揺りながら立去ってしまった。――」 秋、ヴォルガの河の水瀬が落ちる。船が通わなくなる。冬の屋根を求めて、ゴーリキイがもぐり込んだのは聖画工場の見習で・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ 待ち、疲れた時分に、やっと、Aは、山高の頂を揺り乍ら現れた。その顔を一目見て、自分は余り思わしくないことを感じた。「どう?」 自分は彼の方に近より乍ら訊いた。「さあ、とにかく見ようじゃあないか」 家と云うのは、つい近く・・・ 宮本百合子 「又、家」
・・・の胸を満たしたと同じに、今、芥川氏の心を揺り、私の魂にまで、そのじわじわと無限に打ち寄せる波動を及ぼしたのである。そして、今、図書館の大きな机の上で我を忘れようとして居る私は、その気分の薫り高さに息もつきかねる心持で居る。 その薫り、そ・・・ 宮本百合子 「無題」
出典:青空文庫