・・・ば立ち回りの場で、すぐ眼前を通過する汽車の響きと、格闘者の群れが舗道の石をける靴音との合奏を聞かせたり、あるいはまた終巻でアルベールの愛の破綻と友情の危機を象徴するために、蓄音機の針をレコードの音溝の損所に追い込んでガーガーと週期的な不快な・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ので、Y教授はそれを全部取り寄せてまずそのばらばらの骨片から機の骸骨をすっかり組み立てるという仕事にかかった、そうしてその機材の折れ目割れ目を一つ一つ番号をつけてはしらみつぶしに調べて行って、それらの損所の機体における分布の状況やまた折れ方・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・床の間などには砂壁が少し落ちたらしいが、損所はない。その中、不図、私の目は、机の上にある良人の懐中時計の上に落ちた。蓋なしのその時計は、明るい正午の光線で金色の縁を輝やかせながら、きっちり十二時三分過ぎを示している。真白い面に鮮やかな黒字で・・・ 宮本百合子 「私の覚え書」
出典:青空文庫