・・・ スムールイの黒トランクの中には『ホーマー教訓集』『砲兵雑記』『セデンガリ卿の書翰集』『毒虫・南京虫とその駆除法、附・此が携帯者の扱い方』などという本があった。始めの方がちぎれて無くなってしまっている本。終りがない本。そういう本がつまっ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・初めはマカロニ箱にこしかけて、『ホーマー教訓集』『毒虫、南京虫とその駆除法、附・之が携帯者の扱い方』などという本を音読させられた。が、だんだん『アインホー』を読み、『捨児トム・ジョーンズの物語』を読み、「知らず知らずの間に読みなれて」彼にと・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」
・・・ 十一時までに入らないといけないということをきいたので、議事堂の建物からいえば横裏にあたる門から入って行ったら、もうぎっしりの人の列であった。携帯品預かり所の印半纏の爺さんが「細かいものは風呂敷に包むなり、ポケットへ入れるなりして下・・・ 宮本百合子 「待呆け議会風景」
・・・ 携帯品あずけ所と洗面所は清潔だ。民衆にとって残念なことにはその心持いい水洗便所を利用するために通って来る暇が彼らにないということである。 いくら笑っていても日本女は英国人の愛するお伽噺の女主人公美しきシンデレラではなかった。既に過・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
・・・どこの煙筒からも煙の出ないころだったが、ここの高い煙筒だけ一本濛濛と煙を噴き上げていた。携帯品預所の台の上へ短剣を脱して出した栖方は、剣の柄のところに菊の紋の彫られていることを梶に云って、「これ僕んじゃないのですが、恩賜の軍刀ですよ。他・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫