・・・が、資本だの搾取だのと云う言葉にある尊敬――と云うよりもある恐怖を感じていた。彼はその恐怖を利用し、度たび僕を論難した。ヴェルレエン、ラムボオ、ヴオドレエル、――それ等の詩人は当時の僕には偶像以上の偶像だった。が、彼にはハッシッシュや鴉片の・・・ 芥川竜之介 「彼」
・・・ 佐藤をはじめ彼れの軽蔑し切っている場内の小作者どもは、おめおめと小作料を搾取られ、商人に重い前借をしているにもかかわらず、とにかくさした屈托もしないで冬を迎えていた。相当の雪囲いの出来ないような小屋は一つもなかった。貧しいなりに集って・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・もし、人々がすべてかくのごとく、自から耕し、自から織り、それによって生活すべく信条づけられていたなら、そして、虚栄から、虚飾から、また不正の欲望から生ずる一切のものを排除することができたなら、彼等は、搾取されることもなく、また、搾取すること・・・ 小川未明 「単純化は唯一の武器だ」
・・・ひとり搾取の対象となった彼等の上に、近時、社会の眼が、ようやく正しく向いて来たのでした。 小川未明 「近頃感じたこと」
・・・彼等は、無産階級だ、いかに、搾取されつゝあるかを事実について物語る。また、一方に、享楽階級が、華かな生活を送る時分に、一方は、いかに暗黒な、そして、苦痛多き生活を送るかを事件について描写する。 けれど、目的は、その事実、もしくは事件の筋・・・ 小川未明 「何を作品に求むべきか」
・・・なぜなら商人は、彼等に対して、いつまでも搾取を惜まないからです。 考えれば、いろ/\な不条理がこの社会に存しています。 こればかりでない。もし都会に不幸な家庭があったとします。そして、その家庭は、世間の人々の同情を受けるのに、充分値・・・ 小川未明 「街を行くまゝに感ず」
・・・ 対岸には、搾取のない生産と、新しい社会主義社会の建設と、労働者が、自分たちのための労働を、行いうる地球上たった一つのプロレタリアートの国があった。赤い布で髪をしばった若い女が、男のような活溌な足どりで歩いている。ポチカレオへ赤い貨車が・・・ 黒島伝治 「国境」
・・・自作農は、直接地主から搾取されることはない。併し誰れかから間接に搾取されている。昔は、いまだ少しはましだった。併し、近頃になるに従って、百姓の社会的地位、経済的地位が不利になって生活が行きつまって苦るしくなって来ている。それを親爺は理論的に・・・ 黒島伝治 「小豆島」
・・・抑圧者、搾取者に対する、被圧迫階級の戦争には、吾々は同感せざるを得ない。そしてその勝利を希わざるを得ない。 二 現在、吾々の眼前に迫りつゝある戦争は、どういう性質のものであろうか。 こゝに、泥棒と泥棒が、その盗・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・薪問屋は、中間搾取をやる商売だ。しかし、そこからさえ、ある暗示を感じずにはいられなかった。 親爺は、やはりちびり/\土地を買い集めていた。土地は値打がさがった。自作農で破産をする人間、誰れもかれも街へ出て作り手がなく売りに出す人間、伊三・・・ 黒島伝治 「浮動する地価」
出典:青空文庫