・・・スタイルはスタンダール、川端氏、里見氏、宇野氏、滝井氏から摂取した。その年二つの小説を書いて「海風」に発表したが、二つ目の「雨」というのがやや認められ、翌年の「俗臭」が室生氏の推薦で芥川賞候補にあげられ、四作目の「放浪」は永井龍男氏の世話で・・・ 織田作之助 「わが文学修業」
・・・村役場から配布される自治案内に、七分搗米に麦をまぜて食えば栄養摂取が十分になって自から健康増進せしむることができると書かれてあって、微苦笑を催させずに措かなかったのはこの二月頃だったが、産業組合購買部から配給される米には一斗に二升の平麦が添・・・ 黒島伝治 「外米と農民」
・・・あくまで之を摂取すれば、烏賊の細胞が彼女の肉体の細胞と同化し、柔軟、透明の白色の肌を確保するに到るであろうという、愚かな迷信である。けれども、不愉快なことには、彼女は、その試みに成功したという風聞がある。もう、ここに到っては、なにがなんだか・・・ 太宰治 「女人訓戒」
・・・ただ、摂取するのに面倒がないからである。そう言えば、この男は、どうやら、暑い、寒いを知らないようである。夏、どんなに暑くても、団扇の類を用いない。めんどうくさいからである。ひとから、きょうはずいぶんお暑うございますね、と言われて団扇をさし出・・・ 太宰治 「懶惰の歌留多」
・・・家族のひとたちの様に味噌汁、お沢庵などの現実的なるものを摂取するならば胃腑も濁って、空想も萎靡するに違いないという思惑からでもあろうか。食事をすませてから応接室に行き、つッ立ったまま、ピアノのキイを矢鱈にたたいた。ショパン、リスト、モオツア・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・しかし性のいい弟子は、先生の手足になってきげんよく元気に働いている期間にすっかり先生の頭の中の原動力を認識し摂取してわが物にしてしまう。そうして一本立ちになるが早いかすぐに自分の創作に取りかかる。これに反して先生が自分の仕事を横取りしたとい・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・読者の頭脳次第では、かなりつまらぬ科学記事からでもいろいろな重大問題の暗示を感知し発見し摂取し発展させることもしばしばあるのである。一方ではまた浅薄な概括的論述を羅列した通俗科学的読み物がはなはだしく読者をあやまるという場合もしばしばあるで・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・そういう六かしい問題は別として、現在日本の画界における両つの分派の作品を対照した時に感ずるあるデリケートな差別の裏面には、両派の画家の本来の素質のみならず、画家の日常生活における精神的栄養の摂取し方の差違が隠れているのではないかと疑われる。・・・ 寺田寅彦 「帝展を見ざるの記」
・・・米の中から栄養分を摂取して残余の不用なものを「米とは異なる糞」にして排泄するのならば意味は分かるが、この虫の場合は全く諒解に苦しむというより外はない。『西遊記』の怪物孫悟空が刑罰のために銅や鉄のようなものばかり食わされたというお伽話はあ・・・ 寺田寅彦 「鉛をかじる虫」
・・・それを充実させるためには、やはり天然の資料を豊富に摂取する事が須要である。資料の供給の無い自己はやがて空虚になる。そして空虚な自己の表現は芸術にならない。 林武氏の絵は今年はあまりふるわない。しかし、こういう風に、いい加減なところで・・・ 寺田寅彦 「二科会展覧会雑感」
出典:青空文庫