・・・そんなに擯斥したものではない。何と言っても書記官にもなっている人だ。お前も少しは我を折って交際って見るがいい。となだむる善平に反りを返して、綱雄はあくまできっとしていたりしが、いや私はあんな男と交わろうとは決して思いません。見るから浮薄らし・・・ 川上眉山 「書記官」
・・・として擯斥され、「さまでは言わずもがな」として敬遠されるようである。これは連句を単に鑑賞するだけの立場からはもっともなことであるが、連句というものをほんとうに研究するには不都合な態度である。のみならず自分で連句の創作に手をつけるものにとって・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・あるいはこの諸件を擯斥するに非ず、口にこれを称し、事にこれを行うといえども、その心事の模範、旧物を脱却すること能わざる者なり。 これを方今、我が国内にある上下二流の党派という。一は改進の党なり、一は守旧の党なり。余輩ここに上下の字を用ゆ・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・上士の残夢未だ醒めずして陰にこれを忌むものあれば、下士は却てこれを懇望せざるのみならず、士女の別なく、上等の家に育せられたる者は実用に適せず、これと婚姻を通ずるも後日生計の見込なしとて、一概に擯斥する者あり。一方は婚を以て恩徳のごとく心得、・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・昔の馬鹿侍が酔狂に路傍の小民を手打にすると同様、情け知らずの人非人として世に擯斥せらる可きが故に、斯る極端の場合は之を除き、全体を概して言えば婚姻法の実際に就き女子に大なる不平はなかる可し。一 父母が女子の為めに配偶者を求むるは至極の便・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・漢の高祖が丁公を戮し、清の康煕帝が明末の遺臣を擯斥し、日本にては織田信長が武田勝頼の奸臣、すなわちその主人を織田に売らんとしたる小山田義国の輩を誅し、豊臣秀吉が織田信孝の賊臣桑田彦右衛門の挙動を悦ばず、不忠不義者、世の見懲しにせよとて、これ・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
出典:青空文庫