・・・ 砂山が急に崩げて草の根で僅にそれを支え、其下が崕のようになって居る、其根方に座って両足を投げ出すと、背は後の砂山に靠れ、右の臂は傍らの小高いところに懸り、恰度ソハに倚ったようで、真に心持の佳い場処である。 自分は持て来た小説を懐か・・・ 国木田独歩 「運命論者」
・・・だがその姿勢が悩みのために、支えんとしても崩されそうになるところにこそ学窓の恋の美しさがあるのであって、ノートをほうり出して異性の後を追いまわすような学生は、恋の青年として美しくもなく、また恐らく勝利者にもなれないであろう。 しかし私が・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・ ころげそうになる娘を支えて、アメリカ兵は靴のつまさきに注意を集中して丘を下った。娘の外套は、メリケン兵の膝頭でひら/\ひるがえった。街へあいびきに出かけているのだ。娘は、三カ月ほど、日本兵が手をつけようと骨を折った。それを、あとからき・・・ 黒島伝治 「氷河」
・・・ 当時所謂言文一致体の文章と云うものは専ら山田美妙君の努力によって支えられて居たような勢で有りましたが、其の文章の組織や色彩が余り異様であったために、そして又言語の実際には却て遠かって居たような傾もあったために、理知の判断からは言文一致・・・ 幸田露伴 「言語体の文章と浮雲」
・・・「ああああ、お新より外にもう自分を支える力はなくなってしまった」 とおげんは独りで言って見て嘆息した。 九月らしい日の庭にあたって来た午後、おげんは病室風の長い廊下のところに居て、他人まかせな女の一生の早く通り過ぎて行ってしまう・・・ 島崎藤村 「ある女の生涯」
・・・次女は、卓の上に頬杖ついて、それも人さし指一本で片頬を支えているという、どうにも気障な形で、「ゆうべ私は、つくづく考えてみたのだけれど、」なに、たったいま、ふと思いついただけのことなのである。「人間のうちで、一ばんロマンチックな種属は老人で・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・煙台で聞いたが、敵は遼陽の一里手前で一支えしているそうだ。なんでも首山堡とか言った」 「後備がたくさん行くナ」 「兵が足りんのだ。敵の防禦陣地はすばらしいものだそうだ」 「大きな戦争になりそうだナ」 「一日砲声がしたからナ」・・・ 田山花袋 「一兵卒」
・・・ おれは余りに愛国の情が激発して頭がぐらついたので、そこの塀に寄り掛かって自ら支えた。「これは、あなた、どうなさいましたのですか。御気分でもお悪いのですか。やあ、ロシアの侯爵閣下ではございませんか。」 おれは身を旋らしてその男を・・・ 著:ディモフオシップ 訳:森鴎外 「襟」
・・・ 最後にデンプシーの審判で勝負が決まった時介添に助けられて場の中央に出て片手を高く差上げ見物の喝采に答えた時、何だか介添人の力でやっと体と腕を支えているような気がした。これに反してマックの方は判定を聞くと同時にぽんと一つ蜻蛉返りをして自・・・ 寺田寅彦 「映画雑感6[#「6」はローマ数字、1-13-26]」
・・・ 道太はひどく狼狽したが、かろうじて支えていた。「こっちへ来ると、何かあるのも変だな」道太は呟いたが、何か東京の方へ通信があって、それで呼び返すための電報じゃないかと、ちょっとそういう疑いも起こった。ここへ来てから、彼は東京へ一度し・・・ 徳田秋声 「挿話」
出典:青空文庫