・・・「何にもありませんですがお仕度が出来ました、持って上ってようございますか」 陽子は気をとられていたので、いきなりぼんやりした。「え?」「御飯に致しましょうか」「ああ。どうぞ」 婆さんは引かえして何か持って来た。相当空・・・ 宮本百合子 「明るい海浜」
・・・ 母はまだもらったばかりのよめが勝手にいたのをその席へ呼んでただ支度が出来たかと問うた。よめはすぐに起って、勝手からかねて用意してあった杯盤を自身に運んで出た。よめも母と同じように、夫がきょう切腹するということをとうから知っていた。髪を・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・ 暗くなってから二人は帰り仕度をした。携帯品預所で栖方は、受け取った短剣を腰に吊りつつ梶に、「僕は功一級を貰うかもしれませんよ。」と云って、元気よく上着を捲くし上げた。 外へ出て真ッ暗な六本木の方へ、歩いていくときだった。また栖方は・・・ 横光利一 「微笑」
・・・却説去廿七日の出来事は実に驚愕恐懼の至に不堪、就ては甚だ狂気浸みたる話に候へ共、年明候へば上京致し心許りの警衛仕度思ひ立ち候が、汝、困る様之事も無之候か、何れ上京致し候はば街頭にて宣伝等も可致候間、早速返報有之度候。新年言志・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫