・・・一九一四年、大戦がヨーロッパの思想的支柱をゆり動かしはじめた時、ポール・クロオデルは飽きることのない執拗さで、清教徒であることをやめたジイドをカソリックへ引っぱり込もうとした。「法王庁の抜穴」を書き終ったところであったジイドは、この宗教的格・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・この天皇制の尾骨のゆえに、一九四〇年ごろのファシズムに抗する人民戦線は、日本で理性を支えるいかなる支柱ともなり得なかった。『人間』十一月号に、獅子文六、辰野隆、福田恆存の「笑いと喜劇と現代風俗と」という座談会がある。日本の人民が笑いを知・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・知識人がよしんばそれに対立するとしても、そのことで自己を保っていた支柱を数年前に失ってから、生活と文学とに何かを求めつつそれを追い払いつつ転々して来た跡は、文学の上に明瞭に見て来たところである。 何々文学には満足出来ず、さりとて理念と行・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・婦人が戦争中、戦争が終った今日、どれほどの数で一家の支柱となっているかわからない。同じように兄にかわって、父にかわって一家の経済の柱となっている青年達は、おびただしい数だろうと思う。インフレ防止と言ってモラトリアムがしかれたが、私達の大部分・・・ 宮本百合子 「青年の生きる道」
・・・アジアにおいて、限りない権限をゆだねられている一人の老将軍が、朝鮮の戦線に原子兵器を使用するかしないかを決定するという世紀の絶壁に立たされたとき、彼にノーと言わせる支柱となり、彼を彼の属す国家の人民からさえも世紀の戦争犯罪人とされることから・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
・・・生きている人々にとっての問題であり、特に今日の青年たちの内的支柱にとって、重大な関係がある。 戦争目的のために若い世代は考えることを禁ぜられた。激しい生活の諸現象は、本能的に若い精神を揺り動かすのだけれども、何を捉えて、どう考えを展開さ・・・ 宮本百合子 「「どう考えるか」に就て」
・・・ 一 プロレタリア文化・文学運動の指導者、卓抜な国際的ボルシェヴィク作家同志小林多喜二の虐殺た憎むべき真の敵の姿を覆うものであり、そのことによって、弔辞はかえって敵の支柱、反動の役をつとめる結果に立ち到った・・・ 宮本百合子 「同志小林の業績の評価によせて」
・・・小さい支柱の故障だと云って放って置くな。落盤はいつ起って君らを圧死さすかもしれぬ。 ソヴェト同盟の炭坑では労働者がどんなに作業の危険を防ごうと互に注意しあっているかがありありと感じられた。このポスターを見ただけでも、会社が搾るために労働・・・ 宮本百合子 「ドン・バス炭坑区の「労働宮」」
・・・ ずいぶん粗末な小屋掛け同様の建物が出来、むこうの部落まで、真中に一ヵ所停留場を置いて、数間置きに支柱が立って、鋼鉄の縒綱が頂上の滑車に通り、いよいよ運転を開始したのは、もう七月も半ば過ぎていた。 六はもちろん、早速見物に行った。・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・しかし、芭蕉の芭蕉たるところは、哲学的にそういう支柱のある境地さえも自身の寂しさ一徹の直感でうちぬけて、飽くまでもその直感に立って眼目にふれる万象を詩的象徴と見たところにあるのだと思われる。「さび」が日本の心の窮極にあるというよりは、どこま・・・ 宮本百合子 「芭蕉について」
出典:青空文庫