・・・彼と同年輩、または、彼より若い年頃の者で、学校へ行っていた時分には、彼よりよほど出来が悪るかった者が、少しよけい勉強をして、読み書きが達者になった為めに、今では、醤油会社の支配人になり、醤油屋の番頭になり、または小学校の校長になって、村でえ・・・ 黒島伝治 「電報」
・・・落ちついて、その部屋から忍び出て、そっと支配人をゆり起した。すべて、静粛に行われた。ホテル全体は、朝までひっそり眠っていた。須々木乙彦は、完全に、こと切れていた。 女は、生きた。 ☆ 高野さちよは、奥羽の・・・ 太宰治 「火の鳥」
・・・杉野君の故郷は北海道、札幌市で、かなりの土地も持っているようであるが、母は三年前、杉野君の指図に従い、その土地の管理は、すべて支配人に委せて、住み馴れた家をも売却し、東京へ出て来て、芸術家の母としての生活を、はじめたわけである。杉野君は、こ・・・ 太宰治 「リイズ」
・・・という奇妙な映画で、台湾の物産会社の東京支店の支配人が、上京した社長をこれから迎えるというので事務室で事務成績報告の予行演習をやるところがある。自分の椅子に社長をすわらせたつもりにして、その前に帳簿を並べて説明とお世辞の予習をする。それが大・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・この選定はむしろ百貨店の支配人に一任すればよい。 某百貨店の入口の噴水の傍の椰子の葉蔭のベンチに腰かけてうっとりしているうちに、私はこんな他愛もない夢を見ていたのである。 二 地図をたどる 暑い汽車に乗って遠方・・・ 寺田寅彦 「夏」
・・・俺ァはァ、一生懸命詫びたがどうしてもきかねえ、それであの支配人の黒田さんに泣きついて、一緒に詫びて貰っただ」 傍で、オロオロしている嫁が云った。「で、もとどおりになったかいな」「ウウン、そうはいかねえ、謝りのしるしに榛の木畑をあ・・・ 徳永直 「麦の芽」
・・・是等の人達の上に立って営業の事務一切を掌る支配人が一人、其助手が一人あった。数え来れば少からぬ人員となる。是の人員が一団をなして業を営む時には、ここに此の一団固有の天地の造り出されるのは自然の勢である。同じ銀座通に軒を連ねて同じ営業をしてい・・・ 永井荷風 「申訳」
楢ノ木大学士は宝石学の専門だ。ある晩大学士の小さな家へ、「貝の火兄弟商会」の、赤鼻の支配人がやって来た。「先生、ごく上等の蛋白石の注文があるのですがどうでしょう、お探しをねがえませんでしょうか。もっともごくご・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
・・・グリュントゲンスは才能はあったが、あとではナチスに加って、ベルリン国立劇場支配人と立身したような性格であったため、エリカの結婚生活はながくつづかず、離婚して故郷のミュンヘンにかえった。そして、国立劇場や小劇場に出演した。ショウの「セント・ジ・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・バタ工場の支配人を代えろ!バタ工場上ナザロフスキーの支配人ゴルデーエフは生産に従事することを欲していない。工場は無管理状態に君臨されている。工場が燃料に欠乏を感じぬ日は一日もない。工場用の水はきたない。そのために製造したバタ・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
出典:青空文庫