・・・そして下層の空気や地表からの熱の放散を防ぎ、地球全体を平均で五度ぐらい暖かくするだろうと思う。」「先生、あれを今すぐ噴かせられないでしょうか。」「それはできるだろう。けれども、その仕事に行ったもののうち、最後の一人はどうしても逃げら・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・ 厚くしかれた河原の青葦は、むんむんと水気を蒸発させ、葦が乾いて段々枯れてゆくきつい香りを放散させ、わたしは目がくらみそうだった。それでも八月の二十日すぎて東京へかえるとき「古き小画」は出来あがった。「古き小画」は宮原晃一郎氏を通じ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第二巻)」
・・・けれども、緊張や熱が放散的で、内面の厚さが稀薄なように感じたのは何故だろう。 サンピエール寺院に行き、ベルトンを誘惑しようとする場面は、もう少しどうにか美化しても効果が薄くなりはしなかったろうと思う。 掻口説く声が、もっと蠱惑的に暖・・・ 宮本百合子 「印象」
・・・――全く少し感情の強い現世的な人間が、あの整った自然の風景、静かな平らな、どこまでも見通しの利く市街、眠たい、しきたりずくめの生活に入ったら、何処ぞでグンと刺戟され情熱の放散を仕たいと切に望むだろう。そういう超日常を欲する心を、一いきに、古・・・ 宮本百合子 「京都人の生活」
・・・男の子との自然で暢び暢びした交渉が行われれば晴れやかに放散される筈の感情が、周囲の事情によって我知らず偽善的に鬱屈して妙に同性愛的傾向をとるのであろう。或る場合、この心理的動機は当事者である娘たちに自覚されていないことが多いのである。・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
・・・ 二昔ほど以前の生活の環境であったらば、夫人の気質は、所謂江戸子の張りある気象と一致して放散されたものだったかもしれない。けれども大正の末、昭和へと生活は全く複雑になり、情熱のよりどころも見やすくはないものとなった。 まことに女らし・・・ 宮本百合子 「白藤」
・・・けれども彼女の場合には、自覚されていなかったそういう経験主義的な生活振りを、今日の私達が見直すと、そこにある破局は畢竟彼女がリアリストでなかったこと、或は彼女の熱と力との放散を質的に高める社会的な広範な基礎を生活の中にもっていなかったという・・・ 宮本百合子 「問に答えて」
・・・立木の陰、家の陰などは濃くたちこめた靄そのままの紫っぽい色がただようて、枯木の梢の太陽が四方に放散する。紅の輝きの流れが見られる様である。 雪降りの日の様に見えるかぎりは真白で散り敷いた落葉の裏表からは絹針より細く鋭い霜の針がすき間もな・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・種々の抵抗にぶつかり、小道へまで引きまわされ、脂のきつい文章の放散する匂いに揉まれ、而もそれらのごたごたした裡から、髣髴と我々の印象に刻された従妹ベットの復讐の恐ろしい情熱、マルヌッフ夫妻、ユロ男爵の底を知らぬ深刻な情慾への没落、カトリック・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・の現実にその胸の思いを実現してゆく人民的な自由を持たず、そのような教育がどこにもなかった時代、人々はめいめいの生涯のきまりきった小ささに飽き飽きした思いを、せめては日本が戦争に勝つという景気よい機会に放散させるのが一つの心ゆかせであった。国・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
出典:青空文庫