・・・ その趣は、老成人が少年に向い、直接にその遊冶放蕩を責め、かえって少年のために己が昔年の品行を摘発枚挙せられ、白頭汗を流して赤面するものに異ならず。直接の譴責は各自個々の間にてもなおかつ効を見ること少なし。いわんや天下億万の後進生に向っ・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・いかなる場合にも放蕩無情、家を知らざるの軽薄児が、能く私権のために節を守りて義を全うしたるの例は、我輩の未だ聞かざる所なり。 窃かに世情を視るに、近来は政治の議論漸く喧しくして、社会の公権即ち政権の受授につき、これを守らんとする者もまた・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・丹羽文雄氏が、放蕩はしてもよそへ子供は拵えない、何しろ子供にはかなわないからね、というようなことを、その常套性と旧い態度とに対して揶揄的高笑いをうける気づかいなしに、二十歳前後の若い女の座談会で云っていられる状態なのである。『文芸』十月・・・ 宮本百合子 「鴎外・漱石・藤村など」
・・・三田村たちが非合法活動の方便に名をかりて、放蕩していたことはすべての文献にのこっている。今日封建性に反対するという名目で私たちの間に性的な放恣がないであろうか。インフレーションはたれの経済生活をもうちこわしている。インフレーションに名をかり・・・ 宮本百合子 「共産党とモラル」
・・・私の知っている或る家庭では、主人が放蕩で家にかえらぬ淋しい夜、そのひとの妻と年頃の娘とがうちつれ立ってレビュー見物に出かけ、レビューガールを家へつれてかえって賑やかに楽しんでいる事実がある。奥様とお嬢様はどちらへ? 松竹のレビューへお出にな・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
・・・従って、彼女等は、尊敬すべき良人を守って、超然と立つ勇気も無ければ、放蕩無頼な良人をして涙を垂れさせる、尊き憤りもございません。従順と、屈従との差を跨き違える人間は、自分の何事を主張する権威も持たない薄弱さを、「私は女だから」と云う厭うべき・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・じようにさまざまのブルジョア的なひきがからんでいること、今日文壇に出ようと思えば銀座辺のはせ川とかいう店で飲まなければ駄目だとか、公然の秘密となっている菊池寛を先頭としてのさまざまの程度の代作あるいは放蕩、蓄妾その他は、ブルジョア風な世界観・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・ 彼等は、日本の婦人が全く奴隷的境遇に甘じ、良人は放蕩をしようが、自分を離婚で脅かそうが、只管犠牲の覚悟で仕えている。そして、自分の良人を呼ぶのにさえその名を云わず“Our master”と呼ぶ、と云ったと仮定します。 これを見た日・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・しかしながら私は、林君が近頃新聞に書いていたように、今は作家の少壮放蕩時代だ、何でもかまわず作家よ、あばれたければうんとあばれろという風にだけ理解していない。プロレタリア文学の作品が多様化すればするほど、ますます確乎とした階級的基準にたって・・・ 宮本百合子 「近頃の感想」
・・・ 放蕩者は一般に享楽人と認められる。しかし放蕩者のうちに右のごとき貧弱な享楽人の多いことは疑えない。芸妓の芸が音曲舞踊の芸ではなくして枕席の技巧を意味せられる時代には、通人はもはや昔のように優れた享楽人であることを要しないのである。・・・ 和辻哲郎 「享楽人」
出典:青空文庫