・・・何でも三浦の話によると、これは彼の細君の従弟だそうで、当時××紡績会社でも歳の割には重用されている、敏腕の社員だと云う事です。成程そう云えば一つ卓子の紅茶を囲んで、多曖もない雑談を交換しながら、巻煙草をふかせている間でさえ、彼が相当な才物だ・・・ 芥川竜之介 「開化の良人」
・・・ナポレオンと同じコルシカ島のアジャチオ生れのこの敏腕な香水屋が、世界の香水界を支配する実業界の王者となったとき、彼は香水の瓶の形を工夫していることだけには満足しなくなって権力をいじりたくなった。新聞を買収してレオン・ドーデと似たようなことを・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・ 巡査は、敏腕と云われる、二十七八歳の生若い、ものを知らない、巡査を天下一の仕事と心得て居る奴、風紀上など些か微力をつくしたい、と云いたいのでしつこくきく。女房困り、前から気が有った円覚寺の寺男と一緒にさせることに急にし、その男をよぶ。・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・ 勿論この間には、多少生活感情上の暗闘がなかった訳ではありませんが、彼女は、稀な美貌と事務的敏腕を兼備し、その上、著名な良人を持ち、ロンドンでも数少ない程、調ったよき家庭の主婦であると云う素晴らしい調和で有名な一人の女性となりました。・・・ 宮本百合子 「「母の膝の上に」(紹介並短評)」
出典:青空文庫