・・・私は、敗色が濃かった。「それあ、たのしんでいる。僕は、四円もとられたんだぜ。」「安いもんじゃないですか。」言下に反撥して来る。闘志満々である。「カフェへ行って酒を呑むことを考えなさい。」失敬なことまで口走る。「カフェなんかへは行・・・ 太宰治 「市井喧争」
・・・馬鹿な親でも、とにかく血みどろになって喧嘩をして敗色が濃くていまにも死にそうになっているのを、黙って見ている息子も異質的ではないでしょうか。「見ちゃ居られねえ」というのが、私の実感でした。 実際あの頃の政府は、馬鹿な悪い親で、大ばくちの・・・ 太宰治 「返事」
・・・しかし、戦局は全面的に日本の敗色に傾いている空襲直前の、新緑のころである。噂にしても、誰も明るい噂に餓えかつえているときだった。細やかな人情家の高田のひき緊った喜びは、勿論梶をも揺り動かした。「どんな武器ですかね。」「さア、それは大・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫