・・・にすぎないことを教えてくれた。何処へ行って見ても、同じような人間ばかり住んでおり、同じような村や町やで、同じような単調な生活を繰り返している。田舎のどこの小さな町でも、商人は店先で算盤を弾きながら、終日白っぽい往来を見て暮しているし、官吏は・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
・・・知りたきゃ教えてやってもいいよ。そりゃ金持ちと云う奴さ。分ったかい」 蛞蝓はそう云って憐れむような眼で私を見た。「どうだい。も一度行かないか」「今行ったが開かなかったのさ」「そうだろう、俺が閂を下したからな」「お前が! ・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・』 若子さんが眼で教えて下さったので、其方を見ましたら、容色の美しい、花月巻に羽衣肩掛の方が可怖い眼をして何処を見るともなく睨んで居らしッたの。それは可怖い目、見る物を何でも呪って居らッしゃるんじゃないかと思う位でした。 私も覚えず・・・ 広津柳浪 「昇降場」
・・・実は小さい時おれに盗みを教え込もうとした奴があったのだ。だが、どうも不気味だよ。そうは云うものの、おめえ何か旨い為事があるのなら、おれだって一口乗らねえにも限らねえ。やさしい為事だなあ。ちょいとしゃがめば、ちょいと手に攫めると云う為事で、あ・・・ 著:ブウテフレデリック 訳:森鴎外 「橋の下」
・・・幼少の時より家庭の教訓に教えられ又世間一般の習慣に圧制せられて次第に萎縮し、男子の不品行を咎むるは嫉妬なり、嫉妬は婦人の慎しむべき悪徳なり、之を口に発し色に現わすも恥辱なりと信じて、却て他の狂乱を許して次第に増長せしむるが故なり。畢竟するに・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・その秘密らしい背景の上に照り輝いて現われている美しい手足や、その謎めいた、甘いような苦いような口元や、その夢の重みを持っている瞼の飾やが、己に人生というものをどれだけ教えてくれたか。己の方からその中へ入れた程しきゃ出して見せてはくれなかった・・・ 著:ホーフマンスタールフーゴー・フォン 訳:森鴎外 「痴人と死と」
・・・終には昔為山君から教えられた通り、日本画の横顔と西洋画の横顔とを画いて「これ見給え、日本画の横顔にはこんな目が画いてある、実際 君、こんな目があるものじゃない」などと大得意にしゃべって居る。その気障加減には自分ながら驚く。○僕は子供・・・ 正岡子規 「画」
・・・なぜ修身がほんとうにわれわれのしなければならないと信ずることを教えるものなら、どんな質問でも出さしてはっきりそれをほんとうかうそか示さないのだろう。一千九百廿五年十月廿五日今日は土性調査の実習だった。僕は第二班の・・・ 宮沢賢治 「或る農学生の日誌」
・・・と私がきいたら『プラウダ』をよみかけていたままの手をうごかして、「ずっと真直入って行くと右側に二つ戸がある、先の方のドアですよ」と教えてくれた。礼を云って歩き出したら「お前さん、どこからかね?」「日本から来たんです」・・・ 宮本百合子 「明るい工場」
・・・仏涅槃ののちに起った大乗の教えは、仏のお許しはなかったが、過現未を通じて知らぬことのない仏は、そういう教えが出て来るものだと知って懸許しておいたものだとしてある。お許しがないのに殉死の出来るのは、金口で説かれると同じように、大乗の教えを説く・・・ 森鴎外 「阿部一族」
出典:青空文庫