・・・毎朝点呼から消燈時間まで、勤務や演習や教練で休むひまがない。物を考えるひまがない。工場や、農村に残っている同志や親爺には、工場主の賃銀の値下げがある。馘首がある。地主の小作料の引上げや、立入禁止、又も差押えがある。労働者は、働いても食うこと・・・ 黒島伝治 「入営する青年たちは何をなすべきか」
・・・彼軍人的教練なる者是に於て一毫の価値ある耶。 孔子曰く、自らなして直くんば千万人と雖も我往かんと。此意気精神、唯一文士ゾーラに見て堂々たる軍人に見ざるは何ぞや。 或は曰く、長上に抗するは軍人の為す可らざる事、且つ為すを得ざるの事也。・・・ 幸徳秋水 「ドレフュー大疑獄とエミール・ゾーラ」
・・・ 留置場で五六日を過して、或る日の真昼、俺はその留置場の窓から脊のびして外を覗くと、中庭は小春の日ざしを一杯に受けて、窓ちかくの三本の梨の木はいずれもほつほつと花をひらき、そのしたで巡査が二三十人して教練をやらされていた。わかい巡査部長の号・・・ 太宰治 「葉」
・・・云わば実戦に堪える体力を養ってくれた教練のようなものであったのである。平凡な結論ではあるが、学生のときには講義も演習もやはり一生懸命勉強するに限るのであろう。 しかし、米の飯だけでは生きては行かれぬように、学校の正課を正直に勉強するだけ・・・ 寺田寅彦 「科学に志す人へ」
・・・もともと実験の教授というものは、軍隊の教練や昔の漢学者の経書の講義などのように高圧的にするべきものではなく、教員はただ生徒の主動的経験を適当に指導し、あるいは生徒と共同して新しい経験をするような心算ですべきものと思う。簡単な実験でも何遍も繰・・・ 寺田寅彦 「物理学実験の教授について」
・・・況や帝国劇場は西洋オペラを招聘する以前に在って、曾て一たび歌劇部を設けて部員を教練したことさえあるに於てをや。思うに日本の演芸界は既に種々なる新運動を試みているに相違ない。唯之を知る機会なきわたくしが一人之を知らざるに止まっているのであろう・・・ 永井荷風 「帝国劇場のオペラ」
・・・ 一方から見ると、誠に当を得たように思われる文化政策なども、軍事教練に反対した汎太平洋婦人平和会議の決議に反対の見解を示している人々の意見とてらし合わせてみて始めて、真意が了解されるというものであろう。 現在われわれが住んでいる社会・・・ 宮本百合子 「今日の文化の諸問題」
出典:青空文庫