・・・を軽視するの趣あれど、そは思わざるも甚しと云わねばならぬ、斯く式広を確立したればこそ、力ある美風も成立って、家庭を統一し進んで社会を支配することも出来たのである、娯楽本能主義で礼儀の精神がなければ必ず散漫に流れて日常の作法とはならぬ、是に反・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
一 にんじん 「にんじん」は忙しい時にちょっと一ぺん見ただけで印象の記憶も散漫であるが、とにかく近ごろ見たうちではやはり相当おもしろい映画の一つであると思われた。 登場人物の中でいちばんじょうずな役者は・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・第四にはセットの道具立てがあまり多すぎて、印象を散漫にしうるさくする場合が多い。たとえば「忠弥」の貧民窟のシーンでもがそうである。セットの各要素がかえって相殺し相剋して感じがまとまらない。これらの点についても、監督の任にある人は「俳諧」から・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・という言葉の内容がかなり空疎な散漫なものに思われて来る。九州人と東北人と比べると各個人の個性を超越するとしてもその上にそれぞれの地方的特性の支配が歴然と認められる。それで九州人の自然観や東北人の自然観といったようなものもそれぞれ立派に存立し・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・ わたくしは甚散漫ながら以上の如く明治年間の上野公園について見聞する所を述べた。明治時代の都人は寛永寺の焼跡なる上野公園を以て春花秋月四時の風光を賞する勝地となし、或時はここに外国の貴賓を迎えて之を接待し、又折ある毎に勧業博覧会及其他の・・・ 永井荷風 「上野」
世に伝うるマロリーの『アーサー物語』は簡浄素樸という点において珍重すべき書物ではあるが古代のものだから一部の小説として見ると散漫の譏は免がれぬ。まして材をその一局部に取って纏ったものを書こうとすると到底万事原著による訳には・・・ 夏目漱石 「薤露行」
・・・これを俗に邪魔が這入るとも、油を売るとも、散漫になるとも云います。人によると、生涯に一度も無我の境界に点頭し、恍惚の域に逍遥する事のないものがあります。俗にこれを物に役せられる男と云います。かような男が、何かの因縁で、急にこの還元的一致を得・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・ ところで面白いのは、最近何年間かのこの輿論封殺時代に、新聞人は、却ってその前時代の散漫であった人々よりも遙かに内面的になり、批判的になり、且つ客観的な科学性をもって社会事象に向うようになったことである。新聞関係の人々は、各方面を広汎に・・・ 宮本百合子 「明日への新聞」
・・・ しなければならない事に追われる様で、頭が散漫になりはしまいかと怖れて居る。 宮本百合子 「偶感」
・・・注意が散漫になっているのではないから。 九月二十四日 〔市ヶ谷刑務所の顕治宛 駒込林町より〕 九月二十四日夕方五時。 今、『東日』の月評をかき終り「地獄のカマのふたがあいた、あいた」と御機嫌のところです。私は短い時間に、・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
出典:青空文庫