・・・自分は決して浮きたる心でなく真面目にこの少女を敬慕しておる、何卒か貴所も自分のため一臂の力を借して、老先生の方を甘く説いて貰いたい、あの老人程舵の取り難い人はないから貴所が其所を巧にやってくれるなら此方は又井下伯に頼んで十分の手順をする、何・・・ 国木田独歩 「富岡先生」
・・・しかしすぐれた倫理学を熟読するならば、いかに著者の人間が誠実に、熱烈に、条理をつくして、その全容を表現しているかを見出して、敬慕の念を抱かずにはいられないであろう。それは文芸の傑作に触れた感動にも劣るものではない。そしてその感染性とわれわれ・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・私も、ひそかに敬慕している。その立派な、できた牧師でさえ、一日、馬市に自分の老いた愛馬を売りに行って、馬をいろいろな歩調で歩かせて商人たちに見せているうちに、商人たちから、くそみそに愛馬をけなされ、その数々の酷評に接しては、「私自身も、つい・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・我輩は朝夕この女聖人に接して敬慕の念に堪えんくらいの次第であるが、このペンに捕って話しかけられた時は幸か不幸かこれは他人に判断して貰うより仕方がない。日本にいる人は英語なら誰の使う英語でも大概似たもんだと思っているかも知れないが、やはり日本・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・ お年も未だ若く御良人に対する深い敬慕や、生活に対しての意志が、とにかく、文字を透して知られているだけでも、或る親しみを感じるのは当然でありましょう。 その方が良人を失われた――而も御良人の年といえば、僅かに壮年の一歩を踏出された程・・・ 宮本百合子 「偶感一語」
・・・ 太平洋の上に横たわる細長い小さい島の日本、そこに生まれ、苦しみ、破壊の中から人民の国日本を建設しようとしている婦人大衆の敬慕に満ちた挨拶をおくります。〔一九四七年三月〕 宮本百合子 「国際民婦連へのメッセージ」
出典:青空文庫