・・・たとえば古来の数学者が建設した幾多の数理的の系統はその整合の美においておそらくあらゆる人間の製作物中の最も壮麗なものであろう。物理化学の諸般の方則はもちろん、生物現象中に発見される調和的普遍的の事実にも、単に理性の満足以外に吾人の美感を刺激・・・ 寺田寅彦 「科学者と芸術家」
・・・ 予報者と被予報者との意志の疎通せざる手近き原因は、予報の指定する範囲と被予報者の利害範囲の大きさの相違と、その公算的不整合を許容する程度の差異に帰すべしと思わる。 最後に卑近なる例を挙げて所説を補わん。木の葉をつたい歩く蟻にとりて・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・さて、こういう記事を読む読者のほうの頭の中にもやはり同じ物語や小説やから収集したあらゆる類型がちゃんと用意されてあるのだから、新聞の類型的描写が自然にぴったりとこっちの持参の型のどれかにはまり整合する。従ってそれで完全に納得し、満足し、そう・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・それらのかなりに不規則な平面的分布が、透視法という原理に統一されて、そこに美しい幾何学的の整合を示している。これらの色を一つ取りかえても、線を一つ引き違えても、もうだめだという気がする。 十歳ぐらいの男の子が二人来て後ろのほうで見ていた・・・ 寺田寅彦 「写生紀行」
・・・ しかし少なくも歴史的に見た時に従来の物理的科学ではいわゆる常識なるものは、論理的系統の整合のためには、惜しげなくとは言われないまでも、少なくもやむを得ず犠牲として棄却されあるいは改造されて来た。 太陽が動かないで地球が運行している・・・ 寺田寅彦 「相対性原理側面観」
・・・そうしてそのような所知者の世界には時と空間に関する整合が存在し、普遍にして必然な因果関係が存在するという事を前提として、そういう型にはまるようにこの世界を処理して行く。そういう試みがある程度まで成効した結果が今日の科学である。 従来哲学・・・ 寺田寅彦 「文学の中の科学的要素」
出典:青空文庫