・・・そう云う態度や顔に適っているのはこの男の周囲で、隅から隅まで一定の様式によって、主人の趣味に合うように整頓してある。器具は特別に芸術家の手を煩わして図案をさせたものである。書架は豊富である。Bibelots と云う名の附いている小さい装飾品・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・これまでは真の遊び半分という有様なりしがこの時よりやや真面目の技術となり技術の上に進歩と整頓とを現せり。少くとも形式の上において整頓し初めたり。すなわち攫者が面と小手(撃剣を着けて直球を攫み投者が正投を学びて今まで九球なりし者を四球に改めた・・・ 正岡子規 「ベースボール」
・・・ 文化に対する理解がそこにあるとされているが、そういう国では現在青年群に与える読みものとしてそういう古典を整頓しているほか、その青年たちが成人したときその世代の文化的創造力を溌溂旺盛ならしめるために、どんな独創の可能を培いつつあるのだろ・・・ 宮本百合子 「明日の実力の為に」
・・・戦争が終ったとき、これらの作家たちが、疲労を休めながら、戦争中の文学的収穫の整頓・出版に忙しかったことは想像される。そのために、ソヴェト市民が求めているくつろぎと笑いとに答えるゆとりをもたなかったことも想像される。 このすき間にゾシチェ・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・さっぱりしたコンクリートの、隅々まで整頓された炊事場。洗濯所。一週間入院中は面会はさせない。ただ家から果物やジャムなんかを持って来ることは随意というわけで、入院産婦への見舞受付口には亭主らしい数人の男と七八人の籠を腕にかけた女連が立っている・・・ 宮本百合子 「モスクワ日記から」
・・・列は整頓の形でありながら、常にその奥に何か足りないもののあることを語っているのはまことに意味ふかいことではないだろうか。だから、いろんなもののための列が国民生活の日常に多くなって来ることはそれにつれて、それぞれの国の歴史の緊張の度合いが知ら・・・ 宮本百合子 「列のこころ」
・・・そして一人者のなんでも整頓する癖で、新聞を丁寧に畳んで、居間の縁側の隅に出して置いた。こうして置けば、女中がランプの掃除に使って、余って不用になると、屑屋に売るのである。 これは長々とは書いたが、実際二三分間の出来事である。朝日を一本飲・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・ただそれのみの完成にても芸術上に於ける一大基礎概念の整頓であり、芸術上に於ける根本的革命の誕生報告となるのは必然なことである。だが、自分はここではその点に触れることは暗示にとどめ、新感覚の内容作用へ直接に飛び込む冒険を敢てしようとするのであ・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・このためここの白い看護婦たちは、患者の脈を験べる巧妙な手つきと同様に、微笑と秋波を名優のように整頓しなければならなかった。しかし、彼女たちといえども一対の大きな乳房をもっていた。病舎の燈火が一斉に消えて、彼女たちの就寝の時間が来ると、彼女ら・・・ 横光利一 「花園の思想」
出典:青空文庫