・・・勾配のひどく急な茅屋根の天井裏には煤埃りが真黒く下って、柱も梁も敷板も、鉄かとも思われるほど煤けている。上塗りのしてない粗壁は割れたり落ちたりして、外の明りが自由に通っている。「狐か狸でも棲ってそうな家だねえ」耕吉はつくづくそう思って、・・・ 葛西善蔵 「贋物」
・・・ あの山では主のような小十郎は毛皮の荷物を横におろして叮ねいに敷板に手をついて言うのだった。「はあ、どうも、今日は何のご用です」「熊の皮また少し持って来たます」「熊の皮か。この前のもまだあのまましまってあるし今日ぁまんついい・・・ 宮沢賢治 「なめとこ山の熊」
・・・折々馬が足を踏み更えるので、蹄鉄が厩の敷板に触れてことことという。そうすると別当が「こら」と云って馬を叱っている。石田は気がのんびりするような心持で、朝の空気を深く呼吸した。 石田は、縁の隅に新聞反古の上に、裏と裏とを合せて上げてあった・・・ 森鴎外 「鶏」
出典:青空文庫