・・・ 階級闘争は必然であり、すべての人間的運動は、資本主義的文明の破壊からはじまる。もはや、それに疑いを容れることが出来ない。人間の権利は平等であるから、生活の平等のみが文明の目的であり、同時に精神であるから。前進一路、人類の目的を達せんと・・・ 小川未明 「芸術は革命的精神に醗酵す」
・・・われわれの国の固有の伝統と文明とは、東京よりも却って諸君の郷土に於て発見される。東京にあるものは、根柢の浅い外来の文化と、たかだか三百年来の江戸趣味の残滓に過ぎない。大体われ/\の文学が軽佻で薄っぺらなのは一に東京を中心とし、東京以外に文壇・・・ 織田作之助 「東京文壇に与う」
・・・それは灯がついたということで、もしくは灯の光の下で、文明的な私達ははじめて夜を理解するものであるということを信ぜしめるに充分であった。真暗な闇にもかかわらず私はそれが昼間と同じであるような感じを抱いた。星の光っている空は真青であった。道を見・・・ 梶井基次郎 「冬の蠅」
・・・ たとえば前イギリス皇帝の場合にしても皇位を抛ってまでもの、シンプソン夫人への誠実を賞賛するにおいて私は決して人後に落ちるものではないが、もしかりに前英帝にイギリスの政治的使命についての、文明史的自覚が燃えていたとするならば、それでもそ・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・骨董が重んぜられ、骨董蒐集が行われるお蔭で、世界の文明史が血肉を具し脈絡が知れるに至るのであり、今までの光輝がわが曹の頭上にかがやき、香気が我らの胸に逼って、そして今人をして古文明を味わわしめ、それからまた古人とは異なった文明を開拓させるに・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・今後、幾百年かの星霜をへて、文明はますます進歩し、物質的には公衆衛生の知識がいよいよ発達し、一切の公共の設備が安固なのはもとより、各個人の衣食住もきわめて高等・完全の域に達すると同時に、精神的にもつねに平和・安楽であって、種々の憂悲・苦労の・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・「反文明」「反人巧」の人生観に冠した名であるが、もしこれを定限とすれば、さような人生観上の自然主義は、私に取っては疑惑内の一事実たるに止って、解決の全部とはならない。 ニイチェが人生観の、本能論の半面にあらわれた思想も、一種の自然主義と・・・ 島村抱月 「序に代えて人生観上の自然主義を論ず」
・・・それがみんな清い空気と河の広い見晴しとに、不思議に引寄せられているのである。文明の結果で飾られていても、積み上げた石瓦の間にところどころ枯れた木の枝があるばかりで、冷淡に無慈悲に見える町の狭い往来を逃れ出て、沈黙していながら、絶えず動いてい・・・ 著:シュミットボンウィルヘルム 訳:森鴎外 「鴉」
・・・私は笑いがなかなかとまらず、ご亭主に悪いと思いましたが、なんだか奇妙に可笑しくて、いつまでも笑いつづけて涙が出て、夫の詩の中にある「文明の果の大笑い」というのは、こんな気持の事を言っているのかしらと、ふと考えました。二 とに・・・ 太宰治 「ヴィヨンの妻」
・・・ただこれだけの断片から彼の文化観を演繹するのは早計であろうが、少なくも彼が「石炭文明」の無条件な謳歌者でない事だけは想像される。少なくも彼の頭が鉄と石炭ばかりで詰まっていない証拠にはなるかと思う。 彼はまだこれからが働き盛りである。・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
出典:青空文庫