・・・丹泉はしきりに称讃してその鼎をためつすがめつ熟視し、手をもって大さを度ったり、ふところ紙に鼎の紋様を模したりして、こういう奇品に面した眼福を喜び謝したりして帰った。そしてまた舟を出して自分の旅路に上ってしまった。 それから半歳余り経た頃・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・それが不思議なことには死んだボーヤの小さい時とほとんどそっくりでただ尻尾が長くてその尻尾に雉毛の紋様があるだけの相違である。どこかの飼猫の子が捨てられたか迷って来たかであるに相違ないが、とにかくそのままに居着いてしまって「白」と命名された。・・・ 寺田寅彦 「ある探偵事件」
・・・白地に文様のある紙で壁を張り、やはり白地に文様のある布で家具が包んである。木道具や窓の龕が茶色にくすんで見えるのに、幼穉な現代式が施してあるので、異様な感じがする。一方に白塗のピアノが据え附けてあって、その傍に Liberty の薄絹を張っ・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・それから法隆寺模様の特長と桃山時代の美術の特長とを文様集成を見て知った。 宮本百合子 「日記」
・・・又一字、また一字、二枚の紙は美くしい文字にうずまり、また一枚も一枚も、テーブルの上には四枚の紙が黒い文様をつけて散りました。そうするとどこかで美くしい歌の声がきこえます。筆の行かなくなった詩人の耳はその方にかたむきました。乙女らしい細いやわ・・・ 宮本百合子 「無題(一)」
出典:青空文庫