・・・その時分に、今でもそうだけれども、思い切って妻帯し肉食をするということを公言するのみならず、断行して御覧なさい。どの位迫害を受けるか分らない。尤も迫害などを恐れるようではそんな事は出来ないでしょう。そんな小さい事を心配するようでは、こんな事・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
・・・ 他の地主たちも、彼に倣って立入禁止を断行した。そして、累卵の危きにあるを辛うじて護る事が出来た。小作人どもは、ワイワイ云ってるだけで、何とも手の下しようがなかった。大抵目ぼしい、小作人組合の主だった、は、残らず町の刑務所へ抛り込まれて・・・ 葉山嘉樹 「乳色の靄」
・・・政治に於て此大事を断行しながら人事には断行す可らざるか、我輩は其理由を見るに苦しむものなり。況して其人事に就ては既に法典を発行して、男女婚姻等の秩序は親族篇にも明文あり。唯この上は女子社会の奮発勉強と文明学士の応援とを以て反正の道に進む可き・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・ たとえば日本士族の帯刀はおのずからその士人の心を殺伐に導き、かつまた、その外面も文明の体裁に不似合なればとて、廃刀の命を下したるが如く、政治上に断行して一時に人心を左右するは劇薬を用いて救急の療法を施すものに等しく、はなはだ至当なりと・・・ 福沢諭吉 「政事と教育と分離すべし」
・・・誠に無慙なる次第なれども、自から経世の一法として忍んでこれを断行することなるべし。 すなわち東洋諸国専制流の慣手段にして、勝氏のごときも斯る専制治風の時代に在らば、或は同様の奇禍に罹りて新政府の諸臣を警しむるの具に供せられたることもあら・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・自分はさすがにそれほど大胆ではなかったので、どうも険呑に思われて断行し得なかった。で、依然旧翻訳法でやっていたが、…… 併しそれは以前自分が真面目な頭で、翻訳に従事した頃のことである、近頃のは、いやもうお話しにならない。・・・ 二葉亭四迷 「余が翻訳の標準」
・・・けれども、社会主義の即時断行というスローガンをかかげている日本社会党に、こういう「無職其他」が最も多いということは、なかなか意味深いことである。社会党が、勤労人民の味方のように演説をしながら、勤労人民の苦痛の原因となっている旧い日本の君主に・・・ 宮本百合子 「春遠し」
・・・然し、平時の生活はどうでもなりはしても、不時の災害の種々な場合を予想してそれを断行し得ない者が幾人あるか分りません。 自分が一旦宣言して、境遇から、或る人間の裡から去ったのに、どうして又病気になったからと云って、おめおめ尾を振って行かれ・・・ 宮本百合子 「ひしがれた女性と語る」
・・・やはり立会演説の公開の席上で、社会主義即時断行と天皇制護持と、決して両立し得ない二つのことを並べて綱領としている一政党の立候補者、執行委員の某氏は、聴衆の面前で、個人としての見解は必ずしも自分の属す政党の意見とは一致していないが、党代表とし・・・ 宮本百合子 「矛盾とその害毒」
出典:青空文庫