・・・且つ又恋はそう云うもののうちでも、特に死よりも強いかどうか、迂濶に断言は出来ないらしい。一見、死よりも強い恋と見做され易い場合さえ、実は我我を支配しているのは仏蘭西人の所謂ボヴァリスムである。我我自身を伝奇の中の恋人のように空想するボヴァリ・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・私は断言致します。私たちは、今日まで真底から、互に愛し合って居りました。しかし世間はそれを認めてくれません。閣下、世間は妻が私を愛している事を認めてくれません。それは恐しい事でございます。恥ずべき事でございます。私としては、私が妻を愛してい・・・ 芥川竜之介 「二つの手紙」
・・・彼はその宣言の中に人々間の精神交渉を根柢的に打ち崩したものは実にブルジョア文化を醸成した資本主義の経済生活だと断言している。そしてかかる経済生活を打却することによってのみ、正しい文化すなわち人間の交渉が精神的に成り立ちうる世界を成就するだろ・・・ 有島武郎 「想片」
・・・故に三下りの三味線で二上りを唄うような調子はずれの文章は、既に文章たる価値の一半を失ったものと断言することを得。ただし野良調子を張上げて田園がったり、お座敷へ出て失礼な裸踊りをするようなのは調子に合っても話が違う。ですから僕は水には音あり、・・・ 泉鏡花 「おばけずきのいわれ少々と処女作」
・・・けれども私は医師でない、断言は出来ません。――貴女のお覚悟はよくありません。しかし、私は人間の道について、よく解っておりません。何ともお教えは申されない。それから私が手を取る事です。是非善悪は、さて置いて、それは今、私に決心が着きかねます。・・・ 泉鏡花 「山吹」
・・・と、僕は男らしく断言した。「しかし」と、主人が堅苦しい調子で、「世間へ、あの人の物と世間へ知れてしまっては、芸者が売れませんから、なア――また出来ないようなことがあっては、こちらが困るばかりで――」「そりゃア、もう、大丈夫ですよ」と・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・それを大阪の伝統だとはっきり断言することは敢てしないけれど、例えば日本橋筋四丁目の五会という古物露天店の集団で足袋のコハゼの片一方だけを売っているのを見ると、何かしら大阪の哀れな故郷を感ずるのである。 東京にいた頃、私はしきりに法善・・・ 織田作之助 「大阪発見」
・・・一刀三拝式の私小説家の立場から、岡本かの子のわずかに人間の可能性を描こうとする努力のうかがわれる小説をきらいだと断言する上林暁が、近代小説への道に逆行していることは事実で、偶然を書かず虚構を書かず、生活の総決算は書くが生活の可能性は書かず、・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・ という一言が、彼を悪の華の咲く園に追いやり、太陽の光線よりも夜光虫の光にあこがれさせてしまわないとは、断言できない。「復員の荷物みたいなもン、一つもないぜ」 係員は棚の荷物をちらと見廻して言った。「しかし、預けたことはたし・・・ 織田作之助 「夜光虫」
・・・ 彼はこの断言の時の心境を述懐して、「日蓮が申したるには非ず、只ひとへに釈迦如来の御神我身に入りかはせ給ひけるにや。我身ながら悦び身にあまる。法華経の一念三千と申す大事の法門はこれなり」と書いている。かような宗教経験の特異な事実は、客観・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
出典:青空文庫