・・・バンベリーの「新兵」の絵を見ていれば可笑しいよりは泣きたくなる。ジャン・ヴェヴェーの「銭投げ」を見れば感情と姿勢の対訳を教えられる。そしてそれらは単に見る人の知識となるばかりでなく、一つ一つの生きた体験になるのである。もし聖賢の教えがわれわ・・・ 寺田寅彦 「漫画と科学」
・・・軍律を厳守することでも、新兵を苛めることでも、田舎に帰って威張ることでも、すべてにおいて、原田重吉は模範的軍人だった。それ故にまた重吉は、他の同輩の何人よりも、無智的な本能の敵愾心で、チャンチャン坊主を憎悪していた。軍が平壌を包囲した時、彼・・・ 萩原朔太郎 「日清戦争異聞(原田重吉の夢)」
・・・それから英国ばかりじゃない、十二月ころ兵営へ行ってみると、おい、あかりをけしてこいと上等兵殿に云われて新兵が電燈をふっふっと吹いて消そうとしているのが毎年五人や六人はある。おれの兵隊にはそんなものは一人もないからな。おまえの町だってそうだ、・・・ 宮沢賢治 「月夜のでんしんばしら」
・・・「ははあ、新兵だな。まだお辞儀のしかたも習わないのだな。このくじら様を知らんのか。俺のあだなは海の彗星と云うんだ。知ってるか。俺は鰯のようなひょろひょろの魚やめだかの様なめくらの魚はみんなパクパク呑んでしまうんだ。それから一番痛快なのは・・・ 宮沢賢治 「双子の星」
・・・「新兵器としての女子」と。 第二次世界戦争で世界は数々の惨禍を経験した。けれども、その惨禍の中から、なお世界が驚いて日本の戦法を眺めたのは特攻隊に対してであった。僅か十六七の少年を英雄的な情熱に駆り立てて、いわゆる必殺の戦闘をさせた惨虐・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫