・・・ 奴頭は二人の子供を新参小屋に連れて往って、安寿には桶と杓、厨子王には籠と鎌を渡した。どちらにも午餉を入れるかれいけが添えてある。新参小屋はほかの奴婢の居所とは別になっているのである。 奴頭が出て行くころには、もうあたりが暗くなった・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
・・・ そう云う声と共に、むっくり島田髷を擡げたのは、新参のお花と云う、色の白い、髪のちぢれた、おかめのような顔の、十六七の娘である。「来るなら、早くおし。」お松は寝巻の前を掻き合せながら一足進んで、お花の方へ向いた。「わたしこわいか・・・ 森鴎外 「心中」
・・・帰り新参で、昌平黌の塾に入る前には、千駄谷にある藩の下邸にいて、その後外桜田の上邸にいたり、増上寺境内の金地院にいたりしたが、いつも自炊である。さていよいよ移住と決心して出てからも、一時は千駄谷にいたが、下邸に火事があってから、はじめて五番・・・ 森鴎外 「安井夫人」
出典:青空文庫