・・・本堂は間もなく寄附金によって、基督新教の会堂の如く半分西洋風に新築されるという話……ああ何たる進歩であろう。 私は記憶している。まだ六ツか七ツの時分、芝の増上寺から移ってこの伝通院の住職になった老僧が、紫の紐をつけた長柄の駕籠に乗り、随・・・ 永井荷風 「伝通院」
・・・そして、市民一人一人の精神の内に在る神としてのキリスト教新教を組織した。そして権力のために犠牲にされることのない市民の個々の家庭の尊厳を主張しはじめた。同時に両性の清らかな愛による互いの選択と、その神の嘉し給う結合の形としての結婚を主張した・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
・・・一五六〇年頃p.72 新教と「家庭」。市民生活の単位として。勝手にされぬ砦として。 これは極めて大きいテーマである。イギリスにおいて、ミルトンの一夫一婦 純潔な家庭を称揚したパラダイス ロストフランスの人々も家庭というも・・・ 宮本百合子 「バルザック」
・・・第一に心づくことは、ドイツもフランスも、ロシアも、新教と旧教、ギリシャ正教などのちがいこそあれ、いずれも一般の常識は深い宗教的影響をうけていて、教育そのものが、宗教的教義の重石に窒息されている国柄であったということである。そういう宗教の独断・・・ 宮本百合子 「若き精神の成長を描く文学」
・・・し、学者が献身的態度を以て学術界に貢献しながら、同時に君国の用をなすと云う方面から見ると、模範的だと云って、ハルナックが事業の根柢をはっきりさせる為めに、とうとう父テオドジウスの事にまで溯って、精しく新教神学発展の跡を辿って述べていた。自分・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・『カトリック』教の国には尼になる人ありといえど、ここ新教のザックセンにてはそれもえならず。そよや、かのロオマ教の寺にひとしく、礼知りてなさけ知らぬ宮のうちこそわが冢穴なれ。」「わが家もこの国にて聞ゆる族なるに、いま勢いある国務大臣ファブ・・・ 森鴎外 「文づかい」
出典:青空文庫